5/14 歯医者は年収300万なのか?日大松戸歯学部見学記 |
(写真右から)
山本浩嗣教授(口腔病理学)
付属病院管理課 星野直也課長
私
福本雅彦准教授(歯科臨床検査医学)
久山佳代講師(口腔病理学)
谷本安浩准教授(歯科生体材料学)
5月14日金曜日、千葉県松戸市の日本大学松戸歯学部に行ってきました。企画広報担当の山本浩嗣教授(口腔病理学)のお招きです。他にも、福本雅彦准教授(歯科臨床検査医学)、谷本安浩准教授(歯科生体材料学)、久山佳代講師(口腔病理学)など、歯の専門家の先生方から沢山お話をうかがう、まさに歯学な1日でした。私も大学マニアとはいえどの学問にも詳しいとまでは言えませんので、今回は歯学についてよく知ろうとお邪魔したのです。
まず最初に聞いたのは、「歯科医は過剰なのか」という話です。現在、日本の歯科医師数は約9万9500人(08年)、日本歯科医師会の試算では8800人が過剰と言われています。医師と違い歯科医師養成は抑制されなかったためです。ただし、今後高齢者が増えて需要は増すと山本先生は言います。
しかも、歯科医も引退などで数年後には8万人台になると予想されます。開業歯科医は40歳以上が約75%を占めており、現在18歳の高校生が歯科医学教育を終えた15~20年後には、この多くが引退しています。今はイメージの悪化で志願者が激減し、定員割れだらけの歯学部ですが、まさに今の世代が現役歯科医として活躍する20年後には、歯科医不足になる恐れすらあるそうです。
さて、次は気になる年収です。「歯科医の5人に1人が年収300万円以下」という報道は、歯学部志願者を激減させています。これに対し山本教授は、厚生労働省や平成20年度歯科医業経営実態調査(日本歯科医師会)などから、ざっくりとした平均の数字ではありますが、歯科医は月間収支差額が122.9万円(税金含まず)、つまり、まあ歯科医は年収1400万円ぐらいが平均であると言います。6年間高い学費をかけて難しい勉強をし、医者と同等の仕事の重要性なのですから、これぐらいもらうのは当然でしょう。
昔は歯科医師国家試験は9割受かったそうですが、現在は68~69%台と低迷しています。しかしこれは、歯科医を増やし過ぎないように国が合格者を抑制している面もあるそうです。医者のように入試で止めるのではなく、卒業後の試験で止めるというのは、人の一生を左右してしまう困った問題です。
結局、歯学部卒業生の3割ぐらいが、浪人として卒業していることになります。このイメージの悪さも志願者減につながっています。多くの浪人生は、歯科医師国家試験合格のための予備校に通うことになります。しかし日大松戸歯学部では、「自校の学生は最後まで面倒を見よう」ということで、特別研究生という学生としての身分を与え、設備を使えたり、授業を聴講できるようにしています。さらには、特別な教育プログラムを用意し、毎週土曜日に150分×2コマの授業を24週開講します。なんとか1年の浪人で合格してほしいという親心です。
従来、こうした補習教育は、身内の恥として隠してきたと山本教授は言います。しかし、今は松戸歯学部の教育の特徴として、大きく宣伝するべきではないかと私は話しました。予備校は年100~200万円も学費がかかりますが、特別研究生は年60万円で同等の合格率です。
今年度の松戸歯学部の特別研究生は25名。歯科医師国家試験に受からなかった学生も、最後まで面倒を見る。松戸歯学部の試みはもっと注目されて良いし、大学も宣伝すべきでしょう。松戸歯学部のためだけではなく、歯科大学、歯科業界全体のイメージアップにつながります。
さて、私のような素人から見て不安なのは、歯科医の卒業後のロールモデルが見えにくいことです。歯科医は医師と違い勤務医ではなく開業医がほとんどで、開業費用が数千万円もかかり、しかも過当競争で廃業したり年収300万円になる人がいるのは事実です。先生方はこれをどう考えているのでしょうか。
まず、歯科大学を卒業し歯科医師国家試験に合格した歯科医師の卵たちは、1年間は臨床研修医になります。この臨床研修医の給料はわずか月12~13万円。これを併せてしまうので、歯科医は年収300万という数字が独り歩きしてしまいます。松戸歯学部では今年度は97名の研修医を受け入れています。
1年の臨床研修医期間を終えると、大半が勤務医になります。つまり、すぐには開業できるお金も実力もないので、規模の大きな歯科に就職し、徒弟制度のような修業期間があるわけです。歯科医は先生が若くて病院がキレイな歯医者に人気が集まります。40代ぐらいのピーク時に収入が多く、年をとると客や収入が減っていくというのは、年功序列で使えないジジイに高い給料を出して借金王になっている一部の大企業や一部の公務員に比べると、歯科医というのはある意味ちゃんとしているような気もします。
ちなみに、歯医者は保険外診療の部分で儲けているという人がいますが、これは偏見だそうで、患者の9割5分以上が保険の範囲内で治療をしているのが現状だそうです。歯医者も歯科大学も厳しい自由競争であり、企業努力が必要だと山本教授は言います。実は歯科医の問題というのは、自由競争という意味では、正しい姿なのかもしれません。これを規制に規制でコントロールすることは、向上心を奪うことにもなりかねないのです。といっても歯医者が増えないように日本歯科医師会が止めているのも事実で、松戸歯学部も本当は定員160名なのを128名まで減らし、しかも今年の入学者は97人、伝統ある日本大学松戸歯学部ですら大きく定員割れしているのです。むろん、仮にも歯科医師になるのですから、誰でもいいから入学させて定員を満たすわけにはいきません。文系大学とは事情は違うでしょう。「団塊世代が引退すれば、歯科医師過剰は終わる」と山本教授は言います。
10万人近い歯科医師のうち、1万3000人は5年未満の新人で、年収300万前後というのは当然多くがこの世代です。マスコミはこれをあたかも開業医の年収のように報道していると山本教授は憤ります。ここでようやく、わかりづらい歯科医のロールモデルの話に戻ります。
6年の大学教育、1年の研修医を終えた歯科医は、勤務医として親方のもとで修業します。だいたい一般的に、2~3件の歯医者を渡り歩きます。給料は歩合制が多く、月50万、年収600万ぐらいが多いという話なので、まだまだ儲かる印象はありません。そして、だいたい33歳ぐらいで独立します。
ストレートにいっても、大学卒業が24歳、研修医25歳、それから8年間は他の歯医者のもとで修業し、ようやく33歳で開業医として一国一城の主になるわけです。さあ、莫大な開業費用を回収しなくてはなりません。とはいっても、歯医者は世襲も多いので、親の医院を継ぐ人は開業費用はかかりません。
私がうかがった歯科業界の話は、だいたいこんなところです。やはりマスコミのネガティブキャンペーンは、福祉同様に、極端であるというのが、先生方の反論を聞いての感想です。しかし、歯科業界が、まったく反論やPRをせず、イメージの悪化を放置しているという印象は残りました。
せっかくなので日本大学松戸歯学部の特徴も聞きました。何といっても自慢は4年前にできたばかりの新しい付属病院です。患者数の多さ、医療収入の多さは歯科大学病院では全国トップクラスで、学生が臨床研究・教育などで技能やコミュニケーション能力を磨く機会に恵まれています。
松戸歯学部付属病院は、管理課の星野直也課長にご案内していただきました。病院経営がどこも苦しいご時世ですが、松戸歯学部付属病院は黒字で、売り上げも毎年上がっているとのこと。治療台(ユニット)は185もあり、常勤の歯科医は203人もいます(医師も7名)。感染症や障害のある方の治療室もありました。手術室なども見学させてもらいました。ここに入るには歯科医になるか患者になるかしかありませんし、患者になったら設備見学どころではありませんので、貴重な機会でした。松戸歯学部には顎脳機能センターがあり、顎と脳は密接に関係しているので、脳ドックもできるようになっています。CT、MRI、血管造影室なども見学させていただきました。
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