6/25 京都橘大学は、なぜ変われたのか |
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(写真)山科のタウン誌の編集会議をする京都橘大学の1年生たち。「この大学でしかできないことがいっぱいある」と元気よく語る。奥の3人は左から文化政策学研究科博士後期課程の日高昭子氏、織田直文教授、企画広報課の花岡大幹氏
一度できてしまった大学の偏差値による序列は、よっぽどのことがない限り変わらない。いや、下がるのは簡単だが、上がるのは至難の業だ。そんな大学業界で、奇跡とも言える発展を遂げ、私が注目している大学が2つある。いずれも、女子大から共学化した。
一つは、武蔵野大学である。こちらの躍進は目を見張るばかりだ。もう一つが、京都橘大学だ。私が受験生だった頃は、京都橘女子大学といい、正直言って、それほど目立つ存在ではなかった。ところが、あれよあれよと言う間に、文化財学科を作り、文化政策学部を作り、男女共学の京都橘大学に改称し、
看護学部を作り、現代マネジメント学科を作り、児童教育学科を作り、現代ビジネス学部を作り、都市環境デザイン学科を作り、人間発達学部を作り、2000年代に改革を繰り返し、大躍進していったのである。今や大谷大学や京都精華大学はおろか、桃山学院大学や追手門学院大学よりも志願者数が多い。
京都橘大学は、多くのBクラスの大学が何の手も打たないで凋落していった2000年代に、必死に食らいついていって生き残った稀有な大学なのである。キャンパスを見学したことはあったものの、ちゃんと取材したわけではなかったので、今回、Twitterで小暮宣雄@kogurenob教授にお会い
したのを機に、この大学の発展の秘密に迫るべく、取材を試みた。地下鉄東西線の椥辻駅から徒歩15分の登山をする。決して交通の便は良いとはいえない。バスの本数も非常に少ない。山科は京都でも地味な地区である。こうした立地のハンデは、すでに克服している点が注目される。
多彩な学科があるが、就職に直結した看護や教育の学科、あるいは伝統的な文学部ではなく、あえて現代ビジネス学部の、しかも経営系ではない都市環境デザイン学科を指定した。企画広報課の花岡大幹氏、足立好弘企画広報課長に案内で、まずは木下達文准教授からお話を伺う。
都市環境デザイン学科というと、他大学では建築の学科の名称だ。京都橘では、もちろん建築士の資格取得もできるが、前身の文化政策学部の要素を残し、観光や文化といった文系の分野だけを学ぶことも可能である。木下准教授のご専門は文化資源論、文化施設マネジメント論、展示メディア論で、
自治体の博物館に務めていた経験から、博物館・ミュージアムがご専門である。展示という視点から文化をプロジュースしている。大学のある山科地区で、地域連携を進めている。「京都には、観光地として有名でない地域も多くあり、こうした場所では伝統産業がすたれてきています。学生を関わらせ、
実践型教育やサブゼミといった形で、地域で学ぶことに力を入れています」と木下准教授。京都橘では半数近い教員が、授業以外に学生学会「研究会」というサブゼミを持っており、木下准教授の場合はアートマネジメントに関心のある学生が集まる。「日本のアートに対する姿勢はお粗末極まりない。公共事業
で立派な箱モノばかり作って、中身がないのです。ルーブル美術館には約1500人のスタッフがいますが、東京国立博物館はわずか107人。私は、感性の教育が不十分だと考え、学生に本物のミュージアムや美術館に触れさせることで、文化を支えるすそ野を広げているのです」
続いて、織田直文教授(まちづくり政策、文化政策、都市計画)にお話を伺う。「とにかく学生をフィールドワークに連れていく、現場に連れていく」と最初から飛ばし気味だ。「地域は生き物。地域の資源が可視化されていない」という織田教授は、学生に山科のタウン誌を作らせたり、イベントを企画運営
させる。清水焼団地協同組合と協力し、山科駅前に500個の陶灯路を並べたり、観光マップを作ったり、お祭りに参加したり、ミュージアムでボランティアをしたり、取材をして駅周辺のお店マップを作ったり、アート関係のワークショップを開催したり。山科や京都のカフェを案内する本を出したり……。
と、とにかく次から次へと、山のように資料が出てくる。話も止まらない。織田教授に限らず、都市環境デザイン学科では、先ほどの木下准教授も含め、多くの教員が、学生を町に連れ出し、地域と関わらせ、実践的な授業を、正課でも課外でも、とにかく圧倒的な質と量でこなしていることがわかった。
京都橘大学現代ビジネス学部都市環境デザイン学科。名称だけではそれほどのインパクトはない。しかし、その実態は、イベントの企画運営から雑誌の編集、地域おこしまで、フィールドワークだらけの「楽しい」「遊べる」経営学部なのである。これは今までの大学にはない学部学科で、学生には楽しい。
しかし、教員の負担たるや、どうだろう。「想像を絶する負担がかかる」と織田教授。しかし、教員は「教育に対する情熱」でカバーしているのだとも語る。「とにかく現場学、臨床の知なのです。私は常々、『教育は知識の切り売りじゃない!』と言っています。生きた人間社会の人格投影なのです。
教員や地域の人々といった、人の影響を受けて、学生の人格が変わっていく、成長していく。教育は成果を測れないと言いますが、学生の変化は教師冥利に尽きます。親御さんから「ウチの子が明快に、大学生活をとうとうと語るようになった」と感謝されると、苦労が報われます。学生の人間的成長なのです」
京都橘大学の校舎には、学生が集まり、自習をできるラウンジやコミュニティースペースが一杯ある。普通の大学なら一部の教員しか行かない研究所などにも談話スペースやオープンスペースの会議室があり、1年生が山科のタウン誌の編集会議をしていた。
ある1年生男子は「この大学でしかできないことが一杯ある」と頼もしい。「先生の研究室にも、いつでも雑談に行ったりして、遊びに行けて面白い」という子もいた。「イベントの企画運営、学生が地域の仕事を手伝い、現場のほんまの生の声を聞くのは、すごい勉強になる、力が付く」と織田教授は言う。
シビアな話だが、こうした地域づくりやアートマネジメントの勉強をしても、専門の就職先は少ない。図書館司書や美術館といった就職をする学生はごく少数だ。だが、それはどこの大学も同じ。「どの分野に行っても、こうした勉強は生きる。どんな会社でも地域との関係なしには考えられない」と織田教授。
最後は、就職進路課キャリアセンターの松井元秀氏から就職のお話を伺った。京都橘大学のキャリアセンターは「マニュアルにない心からのサポート」が旗印。マンツーマンで学生を担当し、全員に個人面接をする。1人の職員が100~150人の学生を担当し、必ず電話をする。3回生114人が
「キャリアメイト」という就職リーダーになり、すべてのゼミにいる。各ゼミから出てくる就職委員である。彼らがゼミの中で目を光らせ、就職活動にポジティブでない子をみんなでサポートする。キャリアメイトは日帰り合宿の特別プログラムも受ける。こうして、就職活動でこぼれる子を出さない。
関西の多くの中堅大学、小規模大学が凋落し、存亡の危機にある中、京都橘大学は、教職員の想像を絶する努力で、ブランド力を上げ、人気校であることを維持し続けている。ここを見てしまうと、他大学はやはり努力不足に見える。教職員ものんびりし、アカデミズムの殻に閉じこもり、「昔は良かった」。
受験生や父母、高校教師の目で見た時も、昔ながらの何もしない大学と比べ、学生を成長させるために、あの手この手を打つ京都橘大学は魅力的である。地域貢献活動に取り組む学生が成長していることも、肌で感じる。こうした大学に、これからの大学の生き残りのヒントがあるだろう。(おわり)
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