立教大学の独立大学院とセカンドステージ大学 |
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池袋にある立教大学は、その地の利を生かし、3つの社会人大学院を設置している。社会人が大学院に行きづらい日本において、何か工夫されている点はあるのだろうか。
ビジネスデザイン研究科は、他大学にも開設が相次いでいる、いわゆるMBAである。同研究科委員長の亀川雅人教授は、「日本ではMBAは給与に反映されず、職位も変わらないが、それだけが存在意義ではない」という。
立教のMBAに来る社会人の多くは、「不安」を抱えていると亀川教授は言う。中小企業の経営者であったり、あるいはリストラされる先輩を見て将来のキャリアパスが不安になってきた社会人が、今までの仕事のやり方、考え方を変えないといけないのではないか。こうした動機から、30代を中心に、入学金を含め初年度130万円弱もの学費を負担してやってくる。
「アメリカのMBAは、管理職のミドルの戦闘要員を作っている。でもウチはこうした専門職ではなく、自分で考えられるゼネラリストを作りたい。あえて基礎的な内容から教えています。基礎がしっかりできれば、あとは自分で学び、仕事の不安を解消できるのです」(亀川教授)
同研究科では、自ら考える力を養う目的で、「ビジネスシミュレーション」という科目が必修だ。これは90人の学生を4クラスに分け、4~5人のチームで仮想のビジネスを体験するもの。社長、財務、営業など役割分担をすると、議論は白熱し、険悪なムードになることもある。「何で会社だけでなく大学まで来て人づきあいでイヤな思いを」という声もあるが、逆に会社ではできない経験ともいえる。
「人は互いに短所を見たがる傾向がありますが、実際には世の中は各人の長所で成り立っています。相手の長所を発見する。こうした授業は大学院の特徴です」
医者、弁護士、看護士、税理士など、専門職の学生もおり、多彩な立場の人が交流するのもメリットである。
「実務的な知識ではなく、ゆっくり考えて身につける知識の場、そして、異なる職業や立場の人との交流。仕事との両立は大変ですが、時間の管理の仕方はうまくなりまる。修了者は同窓会や勉強会で頻繁に交流しており、何百人という人のネットワークはかけがえのない財産になります」(亀川教授)
実務家教員も半数を占めているが、すぐに役立つ知識や技術というよりも、基礎的なことをゆっくり勉強する力、そして人脈ができるのが、日本のMBAの現状だろう。
21世紀社会デザイン研究科は、NGO・NPOや、企業のCSRなど、非営利組織、危機管理、コミュニティデザインなどを学ぶ大学院である。こちらも修士課程はMBAとなっている。日本では見慣れない分野だが、欧米ではこうした大学院は一般的だ。社会人が在学性の3/4を占め、年齢は20代から70代まで様々である。
「学生の業種は政治家の方や、メーカー、商社、マスコミ、金融など多様です。社会起業(ソーシャルビジネス)という言葉が話題になっているように、近年注目を集め始めた分野です」(研究科委員長・中村陽一教授)
企業の社会的責任が高まり、従来NGO・NPOだけが扱ってきた分野は、様々な両機に広がりつつある。ビジネスの現場でも、営利だけでなく、社会貢献について学びたいという企業人のニーズがあり、学生が集まっている。
「社会の問題を解決したい、あるいは、市民のネットワーク作りを学びたいという学生が多い」(中村教授)
学生の中には、学んだ知識を生かし、ソーシャルビジネスに関わる、あるいは企業でCSRの部署に配属になるといったキャリアチェンジを実現した例もある。
この研究科もやはり、社外人脈ができるのがメリット。しかも、社会貢献という同じ目標を持っているため、自分の会社組織で活躍の場を広げるビジネススクール以上に、学生同士で協力して事業を興したり、ネットワークを広げる動きが盛んである。授業は平日夜の18時半から21時40分だが、終電まで飲み屋で白熱した議論が継続されることも多い。
「修了生の中には、生涯教育を目的とした特定非営利活動法人シブヤ大学を設立した工藤健夫氏、ユニクロのCSRチームでバングラデシュでのビジネスに関わった川端英子氏といった、目覚ましい活躍をする人も出てきています」(中村教授)
異文化コミュニケーション研究科は、一見社会人の学びの場にそぐわない名称だが、研究科委員長の鳥飼玖美子教授は否定する。
「英語教員や通訳、翻訳の職業の人、あるいは職場が多国籍化して、外国の人とコミュニケーションを取る機会の増えた人にとって、単に英語ができるだけでは解決できない問題が、仕事の現場では多々生まれます。そのためのコミュニケーションを学ぶのです」
仕事で培ったスキルだけでは、壁が突破できない。そんな思いを抱いた社会人が、言語学、あるいはコミュニケーション学の理論を基礎から学ぶことで、自分が仕事で抱えていた悩みが可視化、相対化される。スキルではなく、理論を学ぶ大学院である。
「実践は、皆さんの職場でやればいい。大学院では理論をしっかり教えます。研究者養成と同じ熱意で私たちも学生に接します」(鳥飼教授)
社会に出て10年、20年たつと、今までの仕事の経験の蓄積だけでは解決できない問題が湧いてきて、そこで大学院でしっかり理論を学び、仕事の壁を突破する。まだ多くの社会人にとって普通ではないが、確かに大学院を有効に活用する姿が、そこにはある。
「職場でストレスがたまる原因が分かった。コミュニケーションの問題だった。理論を知ることができてよかったという学生の声が届きます。異文化にどう対応したら良いのかがわかる。言語学やコミュニケーション学そのものを教える大学は多くありません。むしろ、社会人が働きながら学ぶことで理解できる点も多いと思います」(鳥飼教授)
立教大学の社会人教育の場として現在、注目を集めているのがセカンドステージ大学だ。学位取得を目的としない、生涯学習の場である。書類選考と面接だけで入学できる1年間の課程(本科)で、希望者は2年目の専攻科に進める。受講料は年間25万円。このほかに本科のみ登録料8万円がかかる。定員は本科70名、専攻科30名。シニア向けの教育であり、50歳以上でなければ入学できない。
授業を担当するのは、立教大学の教員が中心で、授業のレベルは大学と変わらない。文学部の千石英世教授は、「セカンドステージ大学は13~14人のゼミが必修の点が、よその公開講座とはまったく違う」と力説する。平均年齢62歳の学生たちが、10数人ごとにゼミに所属し、卒論とまではいかないものの、1万2千字の修了報告書を提出する。
「もう一度学びなおしたい、大学に行けなかった、あるいは学生運動で大学時代勉強できなかったなど、勉学にやり残した思いを抱えた学生が多く、意欲は高い」(千石教授)
科目は宗教、芸術といった教養系から、コミュニティビジネス、ボランティア活動といった第二の人生を充実させるもの、最後まで自分らしく、介護と看取りといった人生の総仕上げに関する科目などが開講されている。立教大学の科目も一部履修できるので、子どもや孫と同年代の若者と席を並べることもある。
「ゼミでは合宿やフィールドワークもありますし、ゼミ長やクリスマスパーティー委員などの係も決めて沢山の行事をします。全学生が集まって清里で行う合宿では、フォークダンスやキャンプファイヤー、天体観測をしますし、合宿のしおりも学生が作ります」
まるで青春時代が蘇ってきたようだ。
まちおこしや読書会、NGO/NPO活動、ワイン文化研究などをする、「登録プロジェクト」という一種のサークル活動もある。この活動は修了後も続けることができ、セカンドステージ大学を終えてからの第二の人生にやりがいを与えるものにもなっている。社会貢献の場を提供する取り組みでもある。
「毎年年度末になると、まだ辞めたくない、孤独が怖いという学生の声が上がります」(千石教授)
セカンドステージ大学の大きな特徴は、やはり仲間ができること。他大学やカルチャーセンターの公開講座は、一方的に講師の講義を聴くだけのものが多い。ゼミや合宿のある立教のセカンドステージ大学では、学生はみな顔見知りだ。「60歳、70歳にもなって、一生の友人ができた」と感動する学生もいる。
「セカンドステージ大学は、経営的な側面で始めたのではありません。60代から80代の人に、どう生き生きと人生を送っていただけるか、学生と教員の、あるいは学生同士の親密な交流がどれほど質の高い教育の場として立教大学の社会貢献になっているのか。もっと全国に普及してほしい、よその大学にも真似してもらいたいと思っています」(千石教授)
社会人の大学・大学院に対する要求の中心は、実は「人との出会い」だった。仕事以外の人の付き合い、あるいは定年後の生きがい、やりがいを渇望する社会人・シニアの声に対し、少しずつだが大学も変わりつつある。
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