2014.2.14 西南学院大学法学部を取材する |
左から私、毛利教授、前田課長
1)『大学のウソ』で書いたとおり、私は文系私立大学は、専任教員1人あたり学生数が40~60人という問題を解消しない限り、大人数講義が無くならず、どんな「改革」をしても根本的な教育の改善にはならないと考えています。しかし、専任教員が倍になるわけでもありません。ある種絶望しています。
2)そんななかで、マンモス私大の教育改革の切り札だと私が考えているのは、SA(スチューデント・アシスタント)制度です。いくつかの大学で導入が始まっていますが、最も先進的な事例だと私が考えるのは、福岡県の西南学院大学法学部です。この話を聞くために九州まで行きました。
3)西南学院大学法学部では、法学部上学年の学生がSAとして1年生の勉強をサポートします。「面倒見の良い」西南学院大学法学部基礎教育を支える、大事な制度です。現在は、「基礎演習SA」「図書館SA」「添削SA」「勉強会SA」「Web指導SA」という5つのSA業務があります。
4)「基礎演習SA」は、1クラス25名の基礎演習の各クラスに張り付いて、1年生が課題を的確にこなすためのサポートをします。大学生活に上手に入っていけるように、ディベートの立論や日々の学習など、全般的に1年生を支えてくれます。
5)「図書館SA」は、図書館に待機して、図書館の高度な利用をサポートします。とくに、自分が探している情報を入手するために、図書館にある資料をどのように活用すればよいかについて、基本から教えてくれます。待機時間内であれば予約なしで利用できます。基本的には法学部生だけのサービスです。
6)「添削SA」は、入門科目の課題の添削をし、学習上のアドバイスをします。入門科目は、専門科目に進むために非常に重要です。この添削を受けることにより、受講生は学習内容を確実に身につけていくことが出来ます。
7)「勉強会SA」は、授業時間外の勉強会のチューターをしてくれます。専門科目は難しいので、自分だけで予習復習をするのは困難です。そこで基本的な法律科目については、希望者を集めて少人数の自主勉強会のグループを作り、SAがリーダー役をつとめます。
8)「Web指導SA」は、2年生前期の専門科目に対応しています。2年生以降は専門科目も増え、それぞれの勉強会を開催しても集まれる人は多くありません。そこで、インターネット環境を使いながら、SAが後輩を指導する仕組みがあります。
9)希望する学生は、メールやWeb小テストを通じてSAのアドバイスをうけ、専門科目の学習をやりとげることができます。
10)大学は、高校ほど組織化していないため、人との関係が希薄になりがちです。このSA制度をうまく活用すれば、より有益な学習環境を手に入れることができます。相乗効果として、アシスタントをしている学生自身の勉強意欲や成績が向上していると評判です。
11)図書館SA 大学生になると授業の課題やディベートの事前準備などのために、図書館にある資料や検索ツールを使って、本や雑誌記事、新聞記事などを調べる機会が増えます。しかし、最初はその調べ方がわからない、調べた中から何を参考にしていいのかわからないという人が少なくありません。
12)そこで始まったのが、図書館SAによるサポートです。図書館SAが教えるのは、図書館にある参考書、雑誌やデータベースを使って行う情報検索および収集と、その活用方法です。
13)論文添削SA 法律用語の使い方を知り、法律家に近い考え方や論文作りができるよう、上級生が下級生の論文にアドバイスするプログラム。添削日や時間が決められており、下級生はそこに論文を持ち込んでサポートを受ける。終了後は印鑑が押してもらえ、それが一定量を越えると加点になる。
14)授業に真面目に出席しているだけでは、自ら学ぶ力は付きません。授業時間外にどれだけ時間をかけて質の高い自主学習をするかにかかっています。しかし、大学レベルの科目について、自主学習をするというのはそれほど容易なことではありません。
15)そこで西南学院大学法学部では、学生が自然に「学び力」を身につけられるような仕組みの整備を進めています。 これは推薦合格者のための入学前指導を含みます。SAの積極的な活用はその一環です。
16)学生の主体的活動に対して、細やかな人的フィードバックを返す仕組みであることによって、学びの文化が生まれます。また、教員とSA、SAと学生の間のコミュニケーションが双方向性を有するものであることも、学びの文化の創造にとって重要です。
17)さらに、講義に対応した授業時間外の自主活動を促すことによって、単位制度の実質化にも寄与しています。最後に、SAを学部全体で集団として組織すること、および学生の自主活動のいくつかがグループ活動であることによって、学生集団の活性化という効果も上がっています。
18)こうした法学部のSA活動を中心となって推進されている、毛利康俊教授からお話をお伺いしました。ご紹介いただいたのは100周年事業推進室の前田誠史 室長です。そもそも前田さんを紹介して下さったのは、松山大学東京オフィス 東京オフィス長 高橋 宏治さんです。厚く御礼申し上げます。
19)毛利教授いわく。西南学院大学法学部は、2004年にロースクール(法科大学院)ができた際、ベテラン教授がごっそりロースクールに移籍し、若手教員中心の構成になった。彼らは、自分たちのやりたい教育をやろうという熱意に燃えていた。
20)九州ナンバーワン私学である西南学院の学生は優秀である。しかし、優秀だがなんとなくボーっとしている。この学生たちは、手をかければ伸びると毛利教授たちは考えた。そこで、法学教育はいかにあるべきかを考え抜いた末、2004年からSA制度を導入した。
21)学生は手をかければ伸びることは、教員は痛いほど分かっている。しかしマンモス私大の哀しい性で、教員は足りない。そこで、1年ゼミのSAを上級生がやることで、学生同士が学び合う仕組みを作った。入学前教育の内容は、大学内の子会社や外部企業と協力して作った。
22)西南学院大学法学部は、1クラス25人の1年生ゼミは必修であるが、2~4年ゼミは選択である。2・3年は8割が所属するが、4年ゼミは半分以下になり、卒論を書く学生は3~4割しかいない。就活も原因の一つだ。入学時の教育は手厚いが専門教育が手薄なことは自覚しているという。
23)それでも、法学部は、文系学部の中では単位認定が厳しく、勉強させる学部だと思うと毛利教授は言う。弁護士や公務員を目指す学生も一定数いる。こうした中で、まずは導入教育から手を付けている。本当は専門教育にまでアクティブな学びが進めがいいのだが……。
24)法学部のSA制度は、入学前SAのほか、1年前期は基礎演習(25人1クラスにSA1~4名)、法律学の基礎SA(授業時間外に課題添削)、法学部生入門ゼミ(授業外に1コマある科目で、1年生の希望者が履修)、図書館SAなど。SAは春休みに集中研修(今後は毎週化)。
25)1年生後期になると、勉強は急に難しくなるという。そこで、続・法律学の基礎SA(課題添削)があり、授業時間外の昼休みや放課後に先輩が後輩の課題を添削し、課題提出を平常点に加算する。さらに少人数の自主勉強会をチューターとして運営する。
26)多くの大学で、初年次の入門科目は「適当」にやっている。だから落ちこぼれが出るのだが、フォローはない。しかし西南学院大学法学部では、1年生のための憲法、民法の自主勉強会を先輩が主催し、授業時間外の空きコマや放課後に指導する。しかもSAは毎週研修をしている。
27)2年生前期には、憲法、民法、国際法の自主勉強会が開催され、先輩がチューターとなる。これはSA研修はなく、空きコマや放課後に開催される。資料探索の支援をする図書館SAも継続。このように、1・2年次の教育にSAを有効に活用している事例として、西南学院大学法学部を紹介した。(終)
ツイート
←読後にクリックをお願いします