就業力にもつながる「大学での学びの基礎」を涵養する「武蔵野BASIS」 2012.06 |
武蔵野大学の教養教育は「武蔵野BASIS(ベイシス)」と名付けられており、文系・理系を問わずすべての1年生が共に学び、アイデンティティーを形成する、独自性の高いカリキュラムとなっている。科目群は、建学の精神である仏教と健康体育を学ぶ「心とからだ」、学びのスキルを身につけるコンピュータ関連科目と日本語リテラシー、外国語(英語+初修外国語)、就職試験におけるSPI科目的な学習をするリメディアルを目的とした「武蔵野BASIS基礎」などからなるが、目玉は自己理解と他者理解を目的として作られた「基礎セルフディベロップメント」「自己の探究1」「キャリアデザイン(人生の歩き方)」の3科目だ。初年次のカリキュラムは、これら武蔵野BASISと学部固有の科目群でほぼ固定され、ほとんどを必修とすることで、学びの質保証にもつなげようとしている。
教養教育部会の部長を務める久富健教授は、「1991年の大学設置基準大綱化後、多くの大学は専門教育重視になり、教養教育は崩れ落ちてしまった」と語る。この反省を踏まえ、武蔵野大学ではまずキャリア教育から改善を重ね、その成果を踏まえ、平成22年度から「武蔵野BASIS」をスタート。従来のつまみぐいのような教養教育ではなく、1年生をきっちりと育てる教育を志向した。この武蔵野BASISもキャリア教育の延長ではあるが、就職がゴールではない、教養教育と専門教育を結びつけ、卒業後にも活かせる力を涵養したいという思いで立ち上げている。
多彩な科目群の中でも、1年生のゼミにあたる中心となる科目が、「基礎セルフディベロップメント」だ。1年間を通じた8単位を占めるこの科目では、すべての新入生を65人×28クラスに分け、中世ヨーロッパにおけるリベラルアーツの自由7科をモチーフにした、哲学、現代学、数理学、世界文学、社会学、地球学、歴史学の7科目をすべて履修する。7科目の教員が入れ替わりで3週づつ、二コマ連続で講義を行い、1年間で「知の7つのインパクト」を与えるという、野心的なものだ。2時間連続の講義は、1時間目は座学の講義、2時間目はグループワークなど双方向型の授業を取り入れ、学生が長時間の講義で飽きることはない。授業には大学院生のTAもサポートに入る。
「従来は、高校と同レベルのことしか教えていなかった。しかし今は、例えば私の哲学の講義では、デカルトやニーチェの文章を読み、学生同士で議論させるなど、高度な内容にしています。内容の知的レベルは下げません。学生の中には、なぜ理系学部なのに文系を学ぶのか、といった疑問を持つ学生もいますが、私はすべての学生に、本当の意味での教養に出会ってほしい、知的刺激を受けてほしいと思い、こうした科目を作りました」(久富教授)
7科目の履修を終え、知識だけではなく、グループワークで「考え、議論し、伝える」訓練をし、コミュニケーション力、チームワーク形成力を養った学生たちは、最後に1年間の授業の集大成として、年度末の「成果発表」をする。7分野の中から自由に研究テーマを設定し、パワーポイントなどを用いたプレゼンテーションを行う。講義→講義をもとにしたディスカッション、そして最後に行われるプレゼン大会というのが、1年間の授業の流れだ。
1年生の必修科目は23単位にもなり、学生たちはあまり科目選択の余地は無い。なかでもコンピュータ、外国語、日本語リテラシー、基礎セルフディベロップメントは進級基準科目であり、合格しないと2年生になれないなど、厳しい教育内容となっている。「普通に出席し、課題をこなしていれば、よほど留年はしない」と久富教授はいうが、武蔵野大学が1年生に高いスキルの修得を求めていることが、教育内容だけではなく、進級条件からも分かる。
「他学部の学生とシャッフルされたクラスで、様々なグループ学習をしながら、1年間一緒に学ぶことで、仲間作りができ、学生としてのアイデンティティーも育つ」と久富教授は語る。進級科目であることもあり、学生の出席率は高く、このカリキュラムを本格的に導入してからは、居場所ができたことで退学率も減少したという。「かつては、一般教養で物理学の講義をする教員から、学生にやる気がなく、反応もない、と嘆かれましたが、「基礎セルフディベロップメント」の1つになってからは、そうしたこともなくなりました。この科目で学びの基礎が身に付いているため、2年次での科目履修でも、学生たちは意欲が向上し取り組みにも熱心になり、ゼミでは議論やプレゼンテーションが円滑にできるようになりました」と久富教授はその高い効果を語る。
政治経済学部政治経済学科3年生の保谷麻衣さん(ほうや・まい 都立武蔵丘高校)は、「先生だけではなく、学生同士で意見を言い合う環境が新鮮だった」と振り返る。「いろんな学部の人と話す機会があること、いろんな考え方があることを知り、互いにアドバイスがあったことで気づきが大きかった。自分自身の積極性にもつながりました」。一人で勉強するだけでなく、グループで学びを深める経験ができたことも、3年生になり、発言する機会のある授業が増えてきた今、役立っているという。「他大学に行った友達と話すと、武蔵野大学は他大学より勉強はきついけど、きちんと教育をしている、少人数で細かい指導をしていると思います。教育内容をよく調べて上で、この大学を選ぶ人も増えていると思います」(保谷さん)
武蔵野BASISを担当する教員たちは、教員同士で頻繁にFD(ファカルティ・ディベロプメント)活動をし、教育内容を磨きあげる努力を続けている。このプログラムは3年目だが、4年目には学生の成長度合いや満足度などのデータを確認し、改善を加えていく予定だ。キャリア教育をはじめ、試行錯誤で大きく教育内容を変えた科目もあり、まだ発展途上のカリキュラムと言える。
「入学時のマインドセットと、毎時間集中させる工夫、そして毎年でも見直す「教育の中身」を充実させることが、学生を育てると考えています」(久富教授)
ツイート
←読後にクリックをお願いします