2015.10.29 東京理科大学で、数学重視の経済学を学ぼう! |
(写真)左から、安藤晋講師、野澤昌弘講師、施建明教授(中央)、梅澤正史教授、下川哲矢教授
東京理科大学の経営学部に2016年4月に新設されるビジネスエコノミクス学科がすごそうだということで、久喜事務部課長補佐の内藤雅宏さん経由で取材を申し込んだところ、5人も先生を集めてくださり、お話を伺いました。また、入試センター広報統括部広報課の石黒寛行係長にもお世話になりました。ありがとうございます。
施 建明 教授
専門:数理計画、非線形最適化とその応用
何らかの条件の下で関数の最大値や最小値を求める問題を数理計画問題といいます。
ビジネスおよび経営のさまざまな問題を数理的に捉えて論理的に考察した上、モデル化し、最適化問題として解くことにより、制約のある状況のもとに最善の答えを求めます。
下川 哲矢 教授
専門:経済政策、金融論、意思決定論
人々の意思決定とその市場への影響について研究しています。理論的な分析に加え、心理学や脳神経科学を応用した実験的なアプローチによる分析を行います。例えば、金融資産市場において、人々の意思決定が市場の価格形成にどのように影響するのかであるとか、人々の裏切りや協力行動がどのように形成され維持されるのかといった問題について、理論的にモデル化し、実験データや現実の市場データを用いて検証します。
梅澤 正史 教授
専門:ゲーム理論、応用ミクロ経済学、経営科学
「経営・経済に関する戦略決定や意思決定を、数理モデルを用いて科学的に分析しています。その理論・方法論の一つがゲーム理論で、価格競争や出店戦略、企業の技術提携など、いろいろな問題に応用できます。たとえば、ある企業が特許を持っていたとします。その技術・研究開発への投資を回収するには、自社だけで特許を保持した方がいいか、競合他社にライセンスを供与する方がいいか、最適な契約は、開発費や市場の規模、競合他社との差別化の度合いによって決まってきます。
起業の戦略決定だけでなく、どのような保険に加入すればよいかなど、個人の意思決定を分析することもあります。さらに、投票や資源配分、税制などメカニズムデザインも、研究の対象となります。
ゼミでは、基礎的なテキストの輪読から始まり、最終的にはそれぞれが問題を見つけ、卒業論文にまとめます。その過程で重視しているのは、物事を論理的に考え、分析する力と根拠を明確にし、わかりやすく人に説明する力です。このデータを分析する力、伝える力は、学生が社会に出て人と協力して物事を進める際には必ず必要になります。」(学部案内から)
野澤 昌弘 講師
専門:応用統計学
私たちが何らかの意思決定をしなければいけない場面に遭遇したとき、その決定に必要不可欠なデータが十分にそろっているということはまずありません。一部分のデータから全体像を推測し、できるだけ誤りの少ない決定を行うために役に立つ道具の一つが統計的データ解析法です。しかし、まだまだ統計的データ解析法は発展途上です。私の研究室では、既存の統計的データ解析手法の改良や新しい解析手法の開発、および現実問題への適用に取り組んでいます。
安藤 晋 講師
専門:データマイニング、機械学習
データマイニングは統計的・数理的手法を駆使して大量のデータから興味深い情報を抽出する方法です。また、機械学習は具体的な問題に利用できる知識やモデルを情報に基づいて学習する方法です。卒業研究として実用的な意思決定や問題解決のためにこれらの方法の設計や改良に取り組んでもらいます。そのために、まず理論的な基礎を習得した上で、興味を持ったテーマについてモデル化・アルゴリズム設計・実験的な検証等を行っていきます。
5人の先生方、全員からお話をお伺いしましたが、みなさんが「学科責任者」とおっしゃる施建明(SHI Jianming)教授にまとめてお送りいたします。
──ビジネスエコノミクス学科は、いままでの経済学部(学科)とは違います。「数学と分析力重視」です。だから、一般入試では数学を必修にしています。高校生の皆さんは数ⅡBまで勉強してきてください。なぜ数学と分析力重視か。それは、これからの時代は、「経済の知識もあり、数学と分析もできる人」が必要だからです。大量のデータを分析でき、しかも、ゲーム理論や意思決定といった最新の経済の知識もある人間を社会に送り出したいと考えています。
データ分析の世界は、人材不足です。「数学の素養がある経済人(エコノミスト)」が切実に求められています。そういう時代の流れなのです。昔はインターネットもSNSもありませんでした。でも今はありますね。人間の行動を、昔よりもコストをかけずに把握できるようになったのです。昔は、データはあったが、人を使わないとそれを集めたり処理できませんでした。今は人の力はそれほどいりません。そして、大量のデータを生かすことができるのです。
かつては、経済分析は「勘(カン)」に頼っていました。でも、今はデータを使って正確に分析できる。理屈で、説得力のある分析結果を出したり、意思決定ができるのです。それもこれも、データが手に入りやすくなり、ビッグデータを扱えるようになったからです。
たとえば、「マーケティングのデータを分析する」としましょう。今までは、理系の人が「コンピュータができます」。社会科学系の人が「マーケティングができます」と分担してきました。でも、両方できたほうがいいですよね。金融についても同じです。かつては「株は生き物だ」なんて言われましたが、ビッグデータの時代にはそうではありません。データをもとに正確に分析します。そこでは、心理学や経済学も用いているのです。東京理科大学には経営工学科もありますが、あちらは工学寄りの研究であり、経済学をベースにして研究をすることはあまりないかもしれません。私たちは経済学も1つの基礎と位置づけて、経済学分野の教員も多数擁している点が違いです。
文系の学問は、必ずしも過去から学ぶだけではありません。社会科学の最先端は、大きく変化しています。私たちは、
1.経済・ゲーム理論
2.統計・データサイエンス
3.金融
4.心理・行動経済学
の4つが、社会科学の新たな基礎になると考え、この4つの学問を学科の柱としています。今までの経済学部は多くは1と3しか扱ってきませんでした。2と4は最先端の理論です。経済学の古典的な理論は、ゲーム理論を使うことで、今まで分析できなかったことができるようになりました。新たな経済学の広がりなのです。ノーベル経済学賞は、ゲーム理論やその応用理論の受賞が多くなっています。今までの経済学は、競争市場などの限定的なマーケットしか扱ってきませんでした。アダム・スミスの「(神の)見えざる手」の世界です。しかし、新しい経済学はその先に進んでいます。物理学で言うなら、ニュートンとアインシュタインぐらいの違いがあるのです。
人間の関係性ですら、ゲーム理論でモデル化できます。「社会性」の実験でも使えるのです。ゲーム理論が生かせるのは経済学だけではありません。社会科学全般で使えるのです。経営学や政治学でも盛んに用いられています。生物学ですら、生物の生き残りや、進化の過程を解明するのにゲーム理論を用いています。これも、ダーウィンよりはるか先の世界なのです。ミクロ経済も今は半分ぐらいがゲーム理論になりました。
このような新しい分野を扱う私たちビジネスエコノミクス学科は、高校生の皆さんに分かりやすく言うならば、「超すごい経済学部」です。目玉となる科目は2年次後期から3年次前期に必修のPBL科目である「経済データ分析」で、入学定員160人を1クラス50人程度の3クラスに分け、金融、マーケティング、意思決定などのデータを実際に使って分析をします。専門ゼミは3年生からで、卒業論文は必修です。2016年4月のスタート時には15人の専任教員が揃います。1年生の初年次教育のゼミとしては、1クラス20名前後の「キャリアデザイン」という科目があります。
理系の高校生にもぜひ来てほしいです。ビジネスエコノミクス学科と、理学部数学科との違いは、学問としての数学ばかりを学ぶのではなくて、社会と関わる点です。文系の生徒も、数ⅡBまでは学んできてほしい。受験で課しますので。文系か理系かで迷っている生徒さんは、どちらも来てほしいですね。それだけの教育環境は用意します。2016年春に埼玉県久喜市から全面移転する東京都心の神楽坂のキャンパスでは、九段校舎があった飯田橋駅近くの富士見に専用校舎を用意し、経営学部の図書館もできます。30人以下の授業をやるゼミ室を20ぐらい設置し、授業外でも学生が使用できるようにします。全員にパソコンを持たせますので、自習などで活用してほしいと思います。
東京理科大学は、留年が話題になるほど厳しい教育で知られますが、さすがに経営学部ではそれほどではありません。しかし、理科大の気風の良い面は継承されています、それは、他大学に比べて、先生と学生の親密なカルチャーがあることです。現在の久喜キャンパスでは、ゼミ室と教員の研究室は隣接しており、週1回の卒業研究の指導に限らず、学生が日常的に教員を訪ねて学ぶ環境があります。専任教員1人あたり学生数は約35名で、マンモス大学のような50名前後にはなりません。すべてが少人数教育とまでは言えませんが、他大学に比べて手厚い教育はできると自負しています。なかでも全員必修の卒業研究は、指導教員だけではなく、複数の他の教員も卒業研究の審査に参加し、質の高い指導を心がけます。
最先端の経済学が学べる学科を設置するにあたり、それぞれの分野で一流の教員を集めました。たとえば野澤昌弘先生は、統計学がご専門で、データを正しく解析できる基礎としての統計学を研究されています。先生のゼミに所属すると、統計の手法を勉強して、プログラミングを理解できる経済人になれます。
一般入試はすべて数学を課しますが、これに加え、「グローバル方式」の入試は、なんと数学1科目だけです。ただし、英語のTEAPスコアが出願資格となります。TEAPは上智大学が中心に開発したもので、いくつかの大学が参加していますね。上智の経済学部と併願して、私たちを選んでくれると、私たちは嬉しいですね(笑)。
●ビジネスエコノミクス学科の試験方式
A方式 センター試験(外+国+数+[理or社])
B方式 本学試験([国or数]+数+英)
C方式 センター試験(国+外)+本学試験([数+理]or数)
グローバル方式 TEAPスコア(出願資格)+本学試験(数)
公募制推薦 書類審査、小論文(60分)、面接
質の高い研究を行っている研究者は、どうやって見抜けばいいのでしょうか。それは、論文の質です。私たちの学部のホームページを見て、どの先生がどんな英語での経済論文を書いているのかを、まずはタイトルだけでもご覧ください。国際的に高い評価を受けるジャーナルに論文が掲載されていることがお分かりになるはずです。研究者の質=論文の質と言えるでしょう。大学を知名度や偏差値だけではなく、研究者の質で選ぶ視点を、ぜひ持ってください。
今回、お集まりいただいた先生方以外にも、BSジャパン「日経みんなの経済教室」に出演された土屋陽一先生(経営学部講師・マクロ経済学、応用計量経済学)をはじめ、著名な先生が集まっています。東工大やMITからも新たに先生をお招きします。
ビジネスエコノミクス学科は、「超すごい経済学科」であると同時に、「現実の社会で使える経済学科」です。工学系ではなく、経済学理論で武装したデータサイエンティストになりたい皆さんは、ぜひお越しください。教員一同、お待ちしています。(終)
●補足
経営学部は情報リテラシーや数学・統計学が必修で、学生はデータに強く、数字による根拠に基づいて、説得力を持って話ができます。2014年度卒業生の進路のうち、21%が金融、15%が情報産業、13%が製造業などとなっています。
ビジネスエコノミクス学科(入学定員160人)のほかに、経営学科(入学定員320人)があり、そちらは経営学、マーケティング、会計ファイナンス、情報マネジメントの4分野を中心に学びます。経営学科は国英社の文系3科目でも受験できます。グローバル方式はビジネスエコノミクス学科だけです。
【学部案内より】
社会の進展とともに、経営学は過去20年間にさまざまな変化を経験してきました。なかでも最大の変化はリアルタイムに顧客情報を取得し、分析できるようになったことです。しかも、そのデータは従来、企業が扱ってきたデータ量を大きく上回る容量のビッグデータといわれるもので、多種多様さと更新速度が速いリアルタイム性を特徴とします。IT技術が目覚ましい変化を遂げる現代社会のビジネスでは、こうしたビッグデータをいかに読み取り、分析・解析し、どう有効に活用するかといった知識とスキルを持ったデータサイエンティストがますます必要とされます。
ビジネスエコノミクス学科では、近年、ビジネス分析の中心となりつつある計量経済学、実験経済学、ゲーム理論、ファイナンスといった分野を学習します。そしてそれを基盤に、データ解析、経済理論、ファイナンスの専門領域を選択し、問題解決型実習(PBL科目)やゼミナールを通してデータ分析手法についての知識を深めていきます。
これからの社会で最善かつ戦略的な意思決定を行うには、科学的根拠が不可欠です。本学科では、経済学、経営学、金融工学、統計学、データ科学を幅広くかつ専門的に学ぶ、ビジネス分析に関する先端的教育を行い、数理・数量的思考力と創造力、高い倫理性を養います。
●ビジネスエコノミクス学科の4年間
1年次 経済学、経営学および数学の基礎を学ぶ
経済学、経営学、ファイナンスの基礎を中心に、数理・数量的分析力養成のため、線形代数、微分積分、確率・統計を学ぶ。
2年次 経済学、経営学およびデータ分析の専門的基礎を学ぶ
計量経済学、ゲーム理論、アセットプライシングなど、1年次の専門基礎科目の知識を基盤とした経済学、経営学、ファイナンスの関連分野を学びます。また、問題解決型実習(PBL科目)として、経済・経営データの基本的な分析方法を学びます。
3年次 ビジネスエコノミクスに関する専門領域を学ぶ
ファイナンス、データ分析、経済理論の専門領域を選択して学びます。2年次に続き、PBL科目を通してデータ分析手法の知識を深め、ゼミナールも始まります。
4年次 集大成としての卒業研究
卒業研究では自らの問題意識に応じてテーマを決定し、数理・数量的アプローチによる新しく、独創的で、社会的に意義のある成果が求められます。
●将来イメージ
・投資業務や企業評価を行う金融スペシャリスト
・政策立案・経済分析をする経済・政策アナリスト
・経営企画・戦略の立案・評価をするデータアナリスト、データサイエンティスト
・マーケティング・金融システムを設計・開発するシステムエンジニア
●留学プログラム
豊富な英語教育・留学プログラムが用意されています。リーディングやライティングのスキルを身に付け、コミュニケ―ション能力を高めるための科目を設け、習熟度別クラス編成による細かな指導や、年2回全員(1~3年生)TOEIC受験を課すなど、在学中に英語力を伸ばせるサポートを実施、留学プログラムは短期・中期の多彩なプログラムが設けられています。
●学費
初年度納入金135万4000円、授業料75万4000円、施設設備費30万円(経営学部共通)
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