ケンブリッジ大学 |
ロンドン・キングズクロス駅から電車で45分。ケンブリッジ駅からバスで10分ほどで市街地に到着する。ケンブリッジの語源は、ケム川にかかる橋(ケムブリッジ)から。ケム川を学生のこぐ舟で観光するのが旅のハイライトである。漢字では剣橋大学。そのまんまやね。人口11万人の小さな町で、大学の存在感は大きい。
ケンブリッジ大学…1209年、大学と市民の対立で騒乱状態となったオックスフォードから逃げてきた学者たちが、この町に住み着いて大学都市となる。31のコレッジ(イギリスでは正式にはカレッジをコレッジと発音する)から構成される。文系が中心のオックスフォードに対して理系中心の大学とされ、ノーベル賞受賞者数60名以上は世界一。ニュートン、ダーウィン、ジョン・ミルトン、ウィトゲンシュタイン、クロムウェル、クリストファー・レン、ケインズ、チャールズ皇太子、ワトソンとクリック、ホーキング博士など、この大学に集った人々は綺羅星の如くである(評価が定まらない人も混じっている気がするが)。学生数は大学院生まで含めて12,000名、女子学生は4割。細い路地の間に重厚な大学の校舎が密集している。市街地と校舎は一つの町として完全に融合しており、どこまでが大学でどこまでが商店街なのか、厳密に区別はできない。各コレッジには観光客用のトイレが無いのが難点といえば難点だった。
見学した順に感想を記す。
トリニティ・コレッジ…1332年創立。ケンブリッジ大学全体のノーベル賞受賞者(約60名)中、実に31名を輩出した名門中の名門。ニュートンが在学したことであまりにも有名。チャールズ皇太子、オリバー・クロムウェルの母校でもある(ピューリタン革命発祥の地とも言われている)。入場料は£2。
ヘンリー8世の石彫りがある重厚な門を入ると、ロの字型になった校舎の真ん中に800㎡の芝生が広がり(芝生は教授しか歩いてはいけない)、中央にルネサンス式の小さな噴水がある。中庭に立ち、緑の芝生と古びた校舎を眺め、ここにニュートンがいたと思うと、魂が震えるほどの感動があった。このキャンパスの美しさはもはや「美しい」などという言葉ではとても表現しつくせず、私は思わず「まぶしい」と口にしていた。日差しは強く、校舎と芝生を照らす。トリニティ・コレッジは光の中にあった。
私が見た世界中のどの大学と比較しても、最高に美しい大学であると感じた。かつて、人に「どこが一番良かったですか」と聞かれると、「それぞれのよさがありますよ」と無難に答えていたが、これからはもう違う。ケンブリッジ大学トリニティ・コレッジが最高ですよと、私は言える。
古い建物は暗い。校舎内に入ると、黒くて冷たい鉛のような印象になる。レン図書館(クリストファー・レン設計)に向かう途中、ダイニングホール(学食)を発見。やはり茶色で統一された教会のような部屋で、学生と教授がちょうど食事をしていた。調理もここでやっている。しかし「STAFF ONLY」の看板が私を拒んだ。
大学図書館…1934年にできた大学の総合図書館。高層の近代的なビルである。ケンブリッジ大学には当然ながら31のカレッジごとに図書館があるが(専門分野別に60もの図書館がある)、この中央図書館には500万冊もの蔵書がある。イギリスのすべての本が集められ、日本でいう国会図書館に匹敵する規模となっている。この図書館はあまり美的感覚に優れていないので写真は割愛。
ピーターハウス…ケンブリッジ最古のコレッジだが、残念ながらこの日は公開していなかった。古びた外観だが19世紀にかなり改修し、初期の面影は無いらしい。
クイーンズ・コレッジ…貴族の邸宅に迷いこんだような美しいコレッジで、なんと珍しいことに入場無料。小さな中庭はよく手入れされた英国式庭園で、咲き乱れる花が美しかった。ケンブリッジ名物「数学橋」はここの所有。2人の王妃が作った大学なのでこの名前となった。
聖メアリー大教会…ケンブリッジ大学全体を代表する教会。ここの鐘の音は1793年に作曲されたが、私たちの耳によくなじんだ、いわゆる「小学校のチャイム」の音(キーンコーンカーンコーン)である。日本の小学校はロンドンのビッグベンのマネをしたのだが、ビッグベンはここのマネをした。つまり、あのチャイムの音を知っているすべての日本人にとって、この教会は故郷といえる。知っている人は少ないが。
キングス・コレッジ…トリニティ・コレッジと並び、ケンブリッジを代表するコレッジ。町の中心部にあり、規模も大きく、また、礼拝堂があまりにも素晴らしいことで名高い。芝生もものすごく広い。このキングス・コレッジ礼拝堂のクリスマスキャロルは全世界に放送される。
キングス・コレッジは、1441年、ヘンリー6世によって設立された。ヘンリー6世はイギリスが世界に誇る名門中高一貫校「イートン校」の創設者でもあり、当初はイートン校の卒業生のために設立された大学であった。ヘンリー6世は「並ぶ物がないほど壮麗な礼拝堂」の建設を命じたため、ここの礼拝堂はケンブリッジはおろかイギリス中と比較しても優れた教会となった。
石灰石でつくられた礼拝堂は奥行88m、幅12m、天井の高さ24m。こう書いてもうまくイメージがわかないだろうが、中に入った印象は「高い!」と「広い!」が同時に頭の中に浮かぶくらいだった。26枚の巨大なステンドグラスが、日差しに照らされて輝き、筆舌に尽くしがたいほど荘厳であった。祭壇上にはルーベンスの「東方三賢人礼拝の図」。これも巨大なもので、キリスト教の有名な主題が見事に描かれていた。
セント・ジョンズ・コレッジ…「ため息の橋」があることで有名。ここでスコールにみまわれた。
クライスツ・コレッジ…チャールズ・ダーウィン、ジョン・ミルトンを輩出した名門コレッジ。ぜひとも中に入りたかったが、ここも公開されていなかった。くやしいので「ダーウィンダーウィン!」と叫びながら校舎を叩いてみた(←周りが見たら危ない人だ)。
(補足)
先端科学技術の大学…古びた校舎ばかりで歴史と伝統に埋もれたイメージがあるが、実際には最先端の自然科学研究をする大学でもある。あまり観光客の来ない郊外には、多国籍企業の工場等も誘致し、産学連携によるサイエンスパークが整備されており、近代的な建築物が立ち並んでいる。
教育…各コレッジは、ケンブリッジ大学の最低入学資格条件を満たす者の中から独自に入学者を選ぶ。学生はコレッジ内で生活し、少人数のグループによる教育を受ける。生活の場であることが、プライベートの場である大学として、観光客の自由な入場を許さず、入場料をとる姿勢につながっているようだ。大学の性質や規模を考えると仕方がないことなのかもしれない。教授は「ドン」と呼ばれ、1700人いる。大学の所有する博物館・美術館は10もある。
学生生活…かつての学生は特権階級であった。召使を従え、ガウンを着て町を闊歩していた。しかし、今は昔である。ただ、学生寮の掃除は寝室係が行なっている。ガウンは卒業式に着るぐらいになったが、食事の時はガウン着用という規則を頑なに守るコレッジも存在する。ケム川ではボートが盛ん。6月の卒業式には、ガウンを着用した学生たちが町を行進する。
永遠のライバルであるオックスフォードとケンブリッジ。今回両方の町を、大学を比較して感じたのは、観光という目で見れば、「世界一美しい大学の街」と言われているケンブリッジのほうがより魅力的であるということ。ただし、勉学に励むのであれば優劣はない。
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