3/11 デザインがすべての学問を包括する |
http://www.ipsj.or.jp/
驚くべきことに誰でも無料で当日参加できます。
ニコニコ動画と初音ミク、岩手大学のアイスタントを活用した全学的FDの取り組み、京都大学オープンコースウェア、工業高等専門学校のプログラミングコンテスト、英語のみで学位が取得できる京都大学情報学研究科国際コースなど、興味深い研究発表がされていました。文系こそ足を運ぶべきだと思います。
今回、私が聴講したのは、同時開催のソフトウェアジャパン2010
http://www.ipsj.or.jp/10jigyo/forum/software-j2010/index.html
ユーザスタディフォーラム
「ビジネス・エスノグラフィの普及 ~イノベーション人材の育成に向けて~」
講演(1)「東大 i.schoolの設立と試み」
というものでした。
http://www.ipsj.or.jp/10jigyo/forum/software-j2010/program-us.html
事前にこれを見つけて、「東大ばっかり優れた教育をやられちゃたまらんぜ」と偵察に行ったわけです。
★講演者
田村 大 東京大学 i.school ディレクター/
(株)博報堂 イノベーション・ラボ 上席研究員
1994年,東京大学文学部心理学科卒業.2005年同大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学.1994年博報堂入社,2000年より現職.2006年より情報処理学会ユーザスタディフォーラム代表.情報科学,認知科学を専門とし,エスノグラフィ手法を起点とした人間中心のイノベーション・プロセスの研究・実践に取り組む.著書に「センサネットワーク技術―ユビキタス情報環境の構築に向けて」(共著・東京電機大学出版局)など.
★講演概要
昨年9月に東京大学知の構造化センターの全学教育プロジェクトとしてスタートした東京大学i.school(イノベーション・スクール).「これまで世界に存在せず,誰も生み出しえなかった,新しい答えを創り出す人材の育成」を掲げ,デザイン思考を軸に人間中心イノベーションの最前線で活躍するIDEO,Stanfod d.schoolなどの機関と連携してワークショップ中心のプログラム提供を開始した.i.schoolのディレクターとして,その立ち上げからプログラムづくり,運営に至るまでの一連の体験,さらに学生教育の場としてだけでなく,社会や産業と密な接点を持って「学び-学ばれる」関係を育むことを目指した今後のビジョンを紹介する.イノベーション人材創出の拠点としてi.schoolが果たすべき役割と方策について皆様方と議論を行いたい.
=ここから私のメモ=
・2009年秋からはじめました。
・人間中心のイノベーションの場。
・iPod、セグウェイ、Wiiなど。
・イノベーション=技術革新とは限らない。
・任天堂の、技術ロードマップから外れた製品づくり。
「人間中心イノベーション」の定義とは。
・必ずしも技術的ブレークスルーを伴うものではない。
・必ず人間の行動、知覚、習慣、価値観に変化をもたらす。
・2005年、スタンフォード大学にd.schoolができた。
・デザインスクール。
・大学院生向けの課外活動で、学位は出ないが、
・きわめて優秀な学生が選抜されてくる。
・ビジネススクール、エンジニアスクール、メディカルスクール、教育大学院などから来る。
・ここで教えているのは、大きな意味でのデザイン。
・デビット・ケリーが学長。アイデオという会社。
・アイデオは1992年にプロダクトデザインの会社としてシリコンバレーのパロアルトにできた(スタンフォード大のある町)。
・2004年にティム・ブラウンが社長になって大きく変わった。
デザインには「スモールD」と「ビッグD」がある。
・スモールDは、形を作る。
・ビッグDは、社会システムなど大きなもののデザイン。
・世界はビッグDに舵を切っている、
・アイデオはアムトラックの高速鉄道アセラのデザインやインテリアだけでなく、サービスの設計までしている。
・2006年の世界で最もイノベーティブな会社15位に選ばれた。
これをどうやってスタンフォードのコミューンに取り込むのか
・アイデオはどうやったら優秀な人材を集められるのか。
・学校で養おう!
世界のd.school
・アメリカとヨーロッパのあちこちにある。
★工学系からのアプローチ
・まずスタンフォード
・ヘルシンキの工科大と経済大と芸術大が合併したアールト大学にビッグDの「デザインファクトリー」がある。
・韓国ではKAISTのインダストリアルデザイン学科。
・KAISTは世界から研究者・実務家を招いている。
(山内つぶやき)首都大学東京にあるじゃないか。
★経営学系からのアプローチ
・トロント大はロットマンスクールオブマネジメント。
・ここはビジネススクールでデザインを教える。
・ミラノ工科大MIP。
・デザイン都市ミラノのデザイン系ネットワーク、デザインイノベーション。
★芸術学系からのアプローチ
・ロンドンのインペリアルカレッジとロイヤルアカデミー・オブ・アートが提携。この2大学はサウスケンジントンですぐ近くにある。30年前から提携していたが、2年前に共同で「イノベーション・デザイン・エンジニアリング」を立ち上げた。
日本にはこうした大学がない!
・産業と学術の垣根が高い。
・KAISTは政府の力で乗り切っている。
・無いなら作ろう、ということで東大i.schoolを立ち上げた。
(山内メモ)九州芸工大やSFCがあるが、弱いのか。
・2009年9月11日に、アイデオのトム・ケリーと、
・スタンフォード大のd.schoolの教授、
・トロント大のビジネススクールのデザイン教育のディレクター、
・デザインイノベーションの先駆者である、多摩大学の紺野登先生を
http://www.knowledgeinnovation.org/info/ceo.html
お招きし、工学部1号館でワークショップをやった。
アイデオからは6人も来た。
テーマは
「働く母親と子供のよりよいコミュニケーションに向けて」
保育園に行ったり、お母さんの職場訪問、SOHOの人の自宅インタビュー。
・第2回ワークショップは、博報堂イノベーションラボと共同。
「インドの未来を洞察する」
・第3回ワークショップは、「社会的企業(ソーシャルエンタープライズ)をつくる」
・第4回ワークショップは、日立製作所デザイン本部とのジョイント
「エコ・エクスペリエンスのデザイン」
・これは「大きなD」のデザインのワークショップ。
・海外からも関心を持ってもらい、KAISTの先生の講演もしてもらった。
i.schoolの目的と哲学
・5つある。
1.新しいリーダーシップを育てる。
ダイバーシティーのマネジメント。
2.人間中心のイノベーション。
東大の1/3は工学系。技術以外の側面からも考えていこう。
3.(メモに熱中して聞き流してしまった)
4.社会的な課題→大きなD。
・例えば、高齢化社会をどのようにイノベーションの機会ととらえるか。
・社会問題をチャンスととらえる。
5.リアルな体験を提供する。
・日本の大学は産業と教育が離れている。
・ワークショップも絵空事。
・どう社会に還元できるのか。
・創造的なアイデアを考えるだけではダメ。
・学びのプログラムを作る。
・東大の学生が全研究科から応募してくる。
・ワークショップごとに募集。
・プログラムの提供は、外から来た人にしてもらう、アイデオとか。
・協力企業や自治体。
○お金を出してもらう。
○人も出してくれる。
・社会人がi.schoolに入って、一緒にワークショップ。
・成果は自由にお持ち帰りください。
3つのプロセス
1.エスノグラフィー
フォーサイト 人間とか社会を理解する
2.それをどう創造的なアイデアやインプリケーションにするか
シナリオライティング、組織的に動ける人間関係
3。それをどうやって社会とかマーケットに着地させるか
ロジスティクス、コミュニケーション、マーケティング、ストラテジック、プランニング、エグゼキューション
・これはビジネススクールの領域。
・東大にはビジネススクールがない。
・スタンフォードにならあるんだけど…。
(山内)この発言には心底驚いた。東大ってビジネススクールないんだっけ? あるけどろくなもんじゃないという皮肉かなと思って東大のホームページを見たら、東大には本当にビジネススクールがなかった。
・社会システムは身を投じないと全体が動かない。
・社会的企業を作る。起業に向けた準備をする。
・日本はOECD諸国でも子供の貧困率が高い。
・一人親世帯の40%が貧困格差に直面している。
・学ぶ動機づけが、小学校低学年であるかどうかでその後の学びに影響している。
・これをどう事業として成り立たせるか。
・今年はパイロットイヤーだが、社会的企業を作るところまでは持って行けた。
まとめ
・東大生には意外な得意分野がある。
・大学院生の生かされない技能を引き出す。
・工学部の技術スキル以外の。
・シナリオを書くとか、絵を描くとか。
・絵のうまい人やストーリーライティングのうまい人が多く集まった。
・第2回からは千葉大学デザイン系専攻の「アジア人材プログラム」の人たちにも入ってもらっている。(海外からの留学生か?)
・日本産業デザイン振興会の支援を受けて。
・これが非常に良い。
・東大生は演繹的にロジックを考えるが、
・アート系の直感的な人と交流することで、
・思考様式やモノの見方が変化していく。
・社会人の参加者は着地能力が高いがジャンプ力は低い。
・学生はジャンプ力は高い。このコンビネーションが良い。
・チームのインフォーマルな関係性が、パフォーマンスに大きな影響を与える。
・飲み会が超重要。行くか行かないかで大きな差がつく。
・i.schoolでの学びは、学生の専門研究・キャリア選択にも好影響を与える。「進路を考えたり、キャリア選択の参考になった」との声。
・生産性とか成果とかだけじゃない。
イノベーション探検隊
http://ischool.t.u-tokyo.ac.jp/innovation/
・i.schoolの学生が、イノベーションの現場を知る。
・ブログにUP。
・アキレスの「瞬足」(小学生のシェア6割)の開発者の話を聞く。
東京大学i.school
http://ischool.t.u-tokyo.ac.jp/
【講演終了→質疑応答】
山内からの質問
「学部教育ではやらないんですか?」
田村大氏
「学部生も個人では参加している。しかし、ある程度自分の専門を持った人間が集まってやったほうがいい。ただ、学部でもやってほしいという声はある。今後は企業との連携をさらに進めたい」
【終了】
=感想=
私は以前から、リベラツアーツ(教養教育)に決定的に足りないのは
「工学」「農学」「デザイン」
だと言い続けてきた。根拠のない直感で言っていたのだが、
今、デザインの重要性が世界で認知されていることを知り、
自分は間違っていなかったと自信を持つことができた。
日本で工学、経済学、デザイン学がてんでバラバラなのは、
非常にマズイことである。
東大の試みはまだ小さく、しかも大学院である。
だが、こうしたプロジェクトが始まったということは、
いずれ日本中の大学に知られていき、教育に大きな変化が起きるだろう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
これでたった45分の講演なのです。密度が濃すぎて頭が爆発しそうでした。
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