6/2 甲南大学フロンティアサイエンス学部を見に行く |

(写真)1年生から全員のデスクが与えられる「マイラボ」。谷向豊ポートアイランドキャンパス事務室課長(左)と甲元一也准教授(右)
甲南大学フロンティアサイエンス学部を見学してきました。ご案内いただいたのは、甲元一也准教授と谷向豊ポートアイランドキャンパス事務室課長です。村嶋貴之教授にもお会いしました。フロンティアサイエンス学部は生命化学科のみを設置し1学年35人なのに、ポートアイランドに専用校舎があります。
甲元先生はまず、本学部は化学と生物を学ぶ学部であるとおっしゃします。学部学科名からバイオテクノロジーの学部を連想しますが、それだけではなく、化学も力を入れているということ。バイオテクノロジーだけでは、日本では就職の受け皿が少ないそうです。日本では高分子やナノテクが主体で、バイオの
受け皿が少ない理由は、バイオは企業が研究するにはリスクが大きい。日本は法人税が高いため、企業の研究投資の額が少なく、リスクを負えないのだといいます。さらに、日本の国民性として、チャレンジ精神に欠けている面もあると。さて、生命化学科はは1学年わずか35人に、教員は15名もいます。
この学部の特徴は、1年生では教養教育をしないことです。いきなり専門的な実験三昧。2・3年生で教養科目を学びます。その意図は、先生方の受けた教育に対する反省でした。国公立大学の、1・2年で教養課程を学ぶ方式では、1年生のモチベーションが下がってしまうというのです。自分が何のために
教養を学んでいるかがわからない。これでは面白くない。そこで本学部では、1年生で高い専門性を身に着けた上で、2・3年次に「科学と歴史」「科学と文学」「科学と芸術」「産業政策」など、専門と結びついた教養を学びます。高校の先生いわく、「大学1年生になった教え子が、夏休みになると
高校に帰ってきて、大学がつまらない、大学の教育力が低いと不満を言う」とのこと。おざなりな教養教育の弊害でしょう。本学部ではこれをやめたわけです。「理系に教養が必要なのは就職活動の時だ」と甲元先生は言います。本学部の特徴は、徹底した研究者教育で、企業の研究職を育成します。バイオ・
ナノテク産業で研究職を目指すなら、修士・博士は常識。学部卒では、営業や製造、知財などの部署に配属になります。もちろんそれも大切な仕事ですが、ウチは研究職を目指す学部なのだということです。キャンパスは神戸医療産業都市の中にあり、近隣には医療産業や学術機関が集積されています。ここで
さまざまな企業などと連携が進んでいます。まだ2年生までしかいない本学部ですが(修士課程はすでにある)、学生は1年生から企業とかかわり、製薬会社などを見学しているそうです。驚いたことに、企業の採用担当者が、1年生の就職の模擬面接までしてくれるそうです。
日本は化学立国で、化学系の就職はたくさんあると甲元先生は言います。本学部の学位は「理工」です。クォーター制を採用しており、なんと1年4学期。そう、年4回試験があるのです。先生も大変です。同じ専門科目を週2コマ開講しています。他大学の学生の2倍勉強しているといえなくもありません。
本学部の最大の目玉だと私が思っているのが「マイラボ」です。1年生から全員に、自分のデスクとロッカーが与えられます。40人一部屋で、高校の教室ぐらいの広さです。土日も含め、朝8時から夜8時まで使えます。いつでも学生がたむろしていて、それぞれ自分の机で勉強したり、給湯室で談話します。
マイラボは先生の研究室、教員所属の学生研究室(院生・4年生)、実験室とワンフロアでユニットになっています。研究と教育が分かれないで完全に融合しており、1年生から大学院生や教員と親密な交流ができます。先生の研究室は必ず学生研究室の中にある「ボックスインボックス」で、ガラス張りです。
しかも、隣の研究室が何をやっているのかも可視化され、研究室ごとの交流が盛んです。学生には指導主任がつき、面談などをしますが、驚くべきことに副主任の教員がさらに2人付きます。1年生から、3人もの専任教員が面倒をみてくれるのです。マイラボは4フロアありますが、フロアごとに成績を競争
させて、商品に図書券を出しています。マイラボは、6階が化学、5階がナノテク、4階が遺伝子、3階が生物系となっていますが、学生は半年ごとに引越し、2年間で4つのフロアをすべて回ります。しかも、1部屋40人のマイラボは、学年ごとではなく、1年生から4年生までが完全にシャッフルされて
いるのです。「学年ごとにクラス分けなんかしたってしょうがないじゃないか。同じ部屋に1年生から4年生まで集まって、大学院生や教員と交流する場を作りたかったんだから」と甲元先生は言います。このシステムは目からウロコです。マイラボのイスは、20以上のサンプルから選び抜いたコクヨのイスで
「教職員のイスよりもいいぐらいだ(笑)」とのこと、スイッチでイスのすわり心地、硬さ調節までできます。こんなイスは私も始めて見ました。2階には高大連携実験室があり、「バイオ」「ナノ」「ナノバイオ」の3部屋があります。高校生はここで夏休みなどには、企業と同じ最先端の機器で実験できる
のです。1年生もここで実験します。実験機器は教育用の器具ではなく、企業の実験用器具ばかりで、どの装置も「目が飛び出るほど高い価格」だそうです。高校生には「偏差値ではなく、本当に理科が好きな子に来てほしい」と甲元先生は言います。「ウチはよそより圧倒的に実験が多い。その環境を楽しめる子じゃないとつらいだろう。大学院まで行ってほしい」とのこと。(おわり)
