6/23 武庫川女子大学の建築学科がスゴすぎる |
武庫川女子大学・武庫川女子大学短期大学部 (2011年版 大学入試シリーズ)
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(写真1)大谷孝彦教授(中央左)、天畠秀秋講師(中央右)と、建築学科の学生・院生のみなさん
私は大学評論家ではなく、大学研究家である。この名称には強いこだわりを持っている。私は、実際に自分が行って見た大学の話しかしない。ネットでニュースを見ただけで、「あそこはいい、悪い」といった話は一切しない。ブログもほとんどすべて取材記事で構成している。圧倒的に現場主義者である。
それゆえに、自分が見ていない大学の話ができない。だが、ずっと気になっていた、武庫川女子大学の建築学科に、ついに行くことができたので、やっと皆様にこの大学の話ができる。以前から武庫女の建築が気になって仕方がなかったのだ。この大学は、多分、日本のすべての建築学科の中で、最高である。
建築学科の大谷孝彦教授からお話を伺う。建築学科は上甲子園キャンパスにあり、甲子園会館と建築スタジオという2つの校舎からなっている。1学年定員40人の学生の専用キャンパスだ。甲子園会館は昭和5年、甲子園ホテルとして竣工した。フランク・ロイド・ライトの弟子、遠藤新の設計である。
アールデコ文様の壁面彫刻、シェル型照明のシャンデリアで統一されたホール、打ち出の小槌を主題にしたオーナメントや緑釉瓦など、和の建築美を取り入れた、貴重な戦前の洋式建築である。通常は事前予約をしないと見学できない。ホテルとしての使用はわずか14年で、戦時中は海軍病院になり、
戦後はGHQに接収されるなど数奇な運命をたどったが、昭和40年に武庫川学院の所有となった。国登録有形文化財に登録されている。建築学科はこの歴史的名建築を、なんと校舎として使っている。建築学科は欧米型の教育を強く志向し、修士まで含めた6年制の一貫教育をしている(4年で卒業も可)。
日本では建築=ゼネコンのイメージが強いが、大谷教授は、「建築は芸術であり、女性に向いている」という。建築学科は土曜日は休みではない。毎週、バスで関西各地をめぐり、建築物を見てスケッチをする。夏にはイタリアやフランスなどで2週間の海外研修をし、著名な建築物をスケッチして回る。
武庫川女子大学の建築学科の最大の目玉は、1年生から全員に、1人1台専用の製図机とパソコンがあること。1人1台専用の製図机があることは欧米では常識だという。1年生のスタジオは甲子園会館の中で、木工、いけばな、デッサン、水彩画、陶芸、瓦の制作、フレスコ、テンペラなどに取り組むアトリエも完備している。
(写真2)1年生のスタジオは甲子園会館の中
なぜ建築学科で生け花や陶芸まで学ぶかというと、造形とは何かを知るためだという。建築はやはり総合芸術なのだ。スタジオの個人机は畳一帖サイズでかなり大きく、隣の机とは仕切られている。しかもパソコンはすべて画面が2つある。廊下には学生の描いたスケッチや、建築模型が常設で展示されている。
もう一つの校舎「建築スタジオ」に向かう。2つの校舎の間は美しい日本庭園になっている。建築スタジオには、2年生以上のスタジオ、教員の研究室、講評室(なんと専用部屋!)、構造実験室、施工実習室などがある。こちらの校舎は新築で、現代の最先端技術を駆使し、環境も考えた設計になっている。
廊下はガラスの展示パネルに学生の作品を展示するギャラリーになっており、常に学生たちの建築模型作品が並んでいる。さまざまな照明器具を取り付けられる昇降式天井、トップライトなどを備えた「光環境実験室」は照明デザインの実験をする部屋で、他には企業にしかないだろうとのこと。
建築構造や各種建築材料の実験機器を備えた構造実験室は規模が大きく非常に広いので、まるで土木学科のようだ。大型の機械も設置されている。2~4年生のスタジオはよく使い込まれて散らかっていた。大学院生になるとなんとスペースは2倍。畳2畳の机とパソコン2台(画面4つ)を独り占めである。
(写真3)大学院生のスタジオは机が畳2帖分、パソコン2台、画面4つ
日本のほかの大学では、製図室が足りないため、学生は道具を持ち歩いて、家で製図の勉強をしたりしている。これでは腰を落ち着けて学べず、結果的にちゃんと勉強できないのだという。研究室に所属する4年生にならなければ、自分の机もない大学がほとんどである。だが、武庫川女子大はそうではない。
建築学科は1学年40人と、高校の1クラスぐらいの規模しかないが、この40人を、「3人」の教員が担当し、各学生の製図机を教員がまわって、一対一できめ細かく指導を行う。演習に必要な材料はほとんどが大学から支給されるので自分で買わなくてもよい。3対40というと、一人の教員が十数人を見る
と思いがちだが、断じてそうではない。3人の先生が、40人の学生全員を見るのだ。だから、学生1人から見れば、3人の専任教員に建築を教わることになる。まだ大学1年生である。6年制の一貫教育にこだわるのは、UIA/UNESCO世界建築家教育基準が5年制、少人数対話型設計演習の重視を定め
ているからだ。日本のほとんどすべての大学の建築学科にとっては、耳が痛い言葉だろう。この基準に到達できる大学がどれだけあるといえるだろうか。大谷孝彦教授が学生を4人集めてくれた。正式な取材でもないのに恐れ多いことであるが、学生たちからお話を伺うことにする。学生は4人。
修士1年の山口彩さん、井上貴恵さん、4年生の小野美郷さん、松枝知花さん。4年生以上ということもあり、研究室での活動を聞こうと思ったら、なんと、研究室もゼミも、そういうシステムは一切ないのだという。なんですと!? 武庫川女子大の建築学科の4年生は、研究室に所属しない!
研究室に所属しないで、4年生はどうやって研究するのか。それは、3人の教員が、学生10数人を見るシステムなのだという。4年生も40人一部屋の大きなスタジオにいるので、大部屋でみんなでそれぞれの研究をやる。つまり、研究室というタコツボに入らず、3人の先生、40人の仲間と研究するのだ。
理系=研究室という価値観は、ガラガラと音を立てて崩れていった。確かに、一つの研究室で、先生のテーマばかり学んでいるより、3人の教員の専門分野の助言を得ながら、自分だけの研究を追及していくのは魅力的である。しかも、研究室だけの人間関係ではなく、学科の全員が毎日同じ部屋で出会うのだ。
学生たちは、「スタジオがあるので、家族より友達と一緒にいる時間が長い」という。夜は10時まで使えるし、居場所があるので、十分勉強ができる。しかも、いつも友達や先輩後輩が一緒だ。まるで宝塚音楽学校の同期生のような鉄の友情じゃないか。偶然にも、宝塚の定員も40人である。
岡崎甚幸教授・学科長からもお話をお伺いしたのだが、あまりに短時間だったので、メモ程度でご容赦。いずれ再取材を。「欧米ではアメリカとイギリスにしか建築士の資格はない。他の欧州の国では、専門の学校を出ただけで評価される」「日本の街並みや建物を見れば、建築士教育がダメなのは分かる」
「設計施工はあかん、あれが日本の建築業界をダメにしている」「僕の出たワシントン大学では、建築学部の中に音楽学科がある」「ものづくりの中で、歴史を教えているのは建築だけ」「アメリカ型の大量生産、大量消費の生活は終わった。これからは欧州型、幸せは芸術にある」「建築は文化の中心」
「古い京都の町は、畳や障子の寸法が全部同じ。だから畳や障子が捨ててあったら、家に持ち帰ればピッタリだった」……。そんなわけで、武庫川女子大学建築学科のレポートを終わります。本当はこの後に行った「丹嶺学苑」という武庫川学院のセミナーハウスが強烈だったのだが、力尽きたのでまた後日。
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