日本の大学教育には学生寮が必要だ |
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(写真)夜11時のAPハウスのロビー。様々な国籍の学生たちが、和室での雑談やゲーム、勉強、ビリヤード、卓球、ピアノなどのレクリエーションを楽しんでいる。12時まで利用可能。
1)立命館アジア太平洋大学(APU)には、キャンパスに隣接して学生寮「APハウス」があり、日本人学生と留学生が共同生活を行っている。2010年9月現在で世界63ヵ国・地域の1194名の寮生が生活しており、2011年度の日本人の新入寮生は約250名。入居希望者の倍率は5倍だ。
2)APハウスには、留学生の1年生「全員」が入居する。10万人だが30万人だか知らないが、留学生を呼ぶだけ呼んでおいて、彼らをアパートで独り暮らしさせ、孤独と差別を与え日本人嫌いにさせる大学とは違う。日本人学生は入居希望者のうち、入学試験の得点上位者から入れる。
3)APハウスは個室とシェアルームがあり、シェアルームでは日本人学生と留学生が2人1部屋に住む。部屋には仕切りがあるが、開けるか閉めるかは2人の相談の上で決める。このように、異なる文化を持つ友人と共同生活を送るなかでコミュニケーション能力や様々な経験を積む「教育寮」である。
4)大学側が寮生活の魅力として最も強調しているものの一つが、「寮生活を通じて得られる最大のものは友人」ということである。近年の大学の学生寮の中には、オートロックで完全個室という単なるマンションのような学生寮を作る大学もあるが、ここではあえてプライベートを減らしている。
5)なぜなら、寮のフロア(階)ごとに、数十人でクラスのようなまとまりを作り、新入寮生同士が交流し、友人を作り、生活をすることが、教育として行われているからだ。寮には管理人もいるが、運営は学生の自治に大きく委ねられており、寮生によるウェルカムパーティーや誕生会などのイベントがある。
6)寮には食堂がない。これは、3食とも大学の学食が利用できるためでもあるが、真の理由はそこではない。寮生20~30人に1つづつ、共同の「コミュニティーーキッチン」が設けられ、調理と食事のスペースがある。つまり「同じ釜の飯を食え」といっているのだ。
(写真)新入寮生歓迎タコ焼きパーティー。留学生の多くは、初めて見る料理だ。
7)世界中からやってきた学生と、日本人学生が、ここで、買ってきた食材を持ち寄り、仲良く自分たちで料理を作る。キッチンは寮の中央にあるため、他の学生も通り、自然に交流が生まれ、友人の輪が広がるようになっている。キッチンにはテレビもあり、ちょっとしたレクリエーションもできる。
8)寮全体の共同設備としては、インターネットルーム、ビリヤードや卓球、ピアノ、和室などが設置されたロビー、100人規模のイベントができる小ホール、大浴場、会議室、自販機、夜だけ空いているコンビニ、学習室など、生活に必要なものが設置されている。
9)APハウスは単なる生活の場ではなく、生活習慣やマナー、ルール、コミュニティの形成などを学ぶ場である。特に、留学生が日本の生活に慣れるために重要な場である。教室以外での場での学びを、寮生活の中で実践的に身につけるのだ。
10)寮では、様々な交流企画が実施されている。教職員による講演、学生が企画した温泉や観光地に仲間同士で行くイベント、寮内での語学学習や料理会など。日本人は異文化や言語を学び、留学生は日本語や日本の習慣を学ぶ。
11)ほとんど1年生しか住んでいないので、コミュニティーの形成に重要な役割を果たすのが、約60人のRA(レジデント・アシスタント)である。入寮経験のある先輩学生から選ばれ、後輩たちの面倒を見る。RAは各フロアに2名配置され、それぞれがコミュニティーキッチンの管理人でもある。
12)RAは、新しい寮生がAPハウスに到着すると、施設や居室の利用方法について説明をする。RAが中心となって、そのフロアの交流イベントを企画し、新寮生がAPハウスで学習生活を確立するために必要な支援を行う。寮生は寮生活や大学生活についてRAに相談する。
13)RAは半年ごとに募集し、書類と面接による選考で決定する。任期は1年間で、奨学金として月額2万円が支給される。寮にも住めてお金ももらえるなんて楽しそうだが、この仕事ははっきりいって激務だ。事実上のフロアの管理人として、ほぼ毎日、寮生の日常生活の面倒をみるためである。
14)たとえば、フロアごとに月1で会議をするが、この会議はなんと日英2カ国語だ。毎週火曜日には60人の全RAが集まり、ミーティングを行う。連絡事項を確認するとともに、APハウスで起きている事を全員で共有し、話し合う場だが、ここも2カ国語。いやでも英語が身に付く。
15)そして寮生は毎晩、交代でコミュニティーキッチンの清掃とごみ出しを行う。RAは当番制で各フロアから出されるゴミの分別が正しく行われているかをチェックする。毎晩である。分別がちゃんとできていないとやり直しである。キッチンは掃除当番の学生(日本人と留学生のペア)がピカピカに磨く。
(写真)寮生たちは毎晩交代でキッチンを掃除し、ごみを分別して出す。RAが厳しくごみの分別をチェックし、ダメな場合はやり直し。これが教育だ。
16)RAとは別に、ハウススタッフという学生もいる。彼らの活動はフロアの域を超えた活動で、寮内でカフェや映画上映会、イベントなどの企画運営をする。活動基準を満たしたハウススタッフには月額1万円の奨学金が支給される。寮のロビーの清掃も彼らが行っている。
17)日本の大学のほとんどは、まったく愚かなことに、学生運動の時代に学生寮をほとんど廃止してしまい、今や多くの日本人は大学は家から通うものになりはてているが、世界では大学は全寮制が常識である。寮で仲間同士が日常生活で学び合い、得られるものは、はかりしれない。これが本当の教育だ。
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