スタンフォード大学の学士課程教育(前編) |
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1)のどから手が出るほど欲しかった、スタンフォード大学の学部教育に関する日本語の論文を探しあてた。「米国の研究大学における1990年代以降の学士課程カリキュラムの特徴─研究に基づく学習を重視するスタンフォード大学の事例から」
http://p.tl/mEpX
2)世界最高の研究大学の一つであるスタンフォード大学は、研究に基づく学習プログラムと学生の研究活動支援のしくみが充実している。具体的には、前者は導入セミナー、ソフォモア・カレッジ、オーナーズ・プログラムの実施、後者は研究助成金の支給、夏期研究活動中の寮の帝京、研究発表の場の提供。
3)5点の特徴がある。1.4年一貫の教育、2.一般教育や作文要件を満たす、3.夏期休暇に実施、4.学科の正課プログラムと中央組織のマネジメント部門の学生支援との連携による実施、5.プログラムを選択制にし、意欲ある優秀な学生に限定して提供する
4)研究大学は、リベラルアーツカレッジと同様の学士課程教育を目指し、大学院などの研究リソースを活用していないため、研究大学全体の活動から乖離した学士課程教育は嫌々やるもので重荷になっている。そこで、学士課程教育を研究大学全体の活動に不可分なものにするためにはどうすればいいか。
5)研究大学ならではの学士課程教育は、一般教育の必要な要素を教える一方で、学生を探求に基づく学習に導くものでなければならない。1998年、カーネギー財団が支援する12名のメンバーによる「研究大学における学士課程学生の教育に関するボイヤー委員会」は、以下の10の提言をした。
6)1.研究に基づく学習を標準とする 2.探求に基づく初年時教育を構成する 3.初年次グループを構成する 4.学際的教育に対するバリアを除く 5.コミュニケーション能力とコースワークをリンクさせる 6.情報技術(IT)を創造的に利用する(つづく)
7)7.最終年次にはキャップストーン経験を通して学問を修めさせる 8.大学院生を教員見習いとして育てる 9.教員の報酬システムを変える 10.コミュニティの意識を育てる ボイヤー委員会は研究に基づく学習を初年次から、共同プロジェクトや実験、研究発表のスキルの習得を行うべきとする。
8)同委員会が全米の研究大学を対象に調査した結果によると、各大学が学士課程教育を改善するための重要な施策として、1.一般教育カリキュラムの改訂(作文、数学、コミュニケーションの重視を含む) 2.学士課程学生の研究機会やプログラムの拡大 3.初年次セミナーの実施と拡大(続く)
9)4.アドバイジングや学習指導のサービス改善 5.学習コミュニティの構築と拡大 である。日本におけるアメリカの大学の学士課程教育の研究はコア・カリキュラムに関するものがほとんどだが、自由選択科目や学生の研究活動の機会提供の論文はない。
10)スタンフォード大学は1891年創立、ノーベル賞受賞者は2008年現在18人、2008年版のニューズウィーク全米大学ランキングはプリンストン、ハーバード、イェールに次ぐ4位。学士課程学生数は約6800人(1学年あたり約1700人)。大学院生は約8200人。
11)秋・冬・春のクオーター制で、学費は1クオーターあたり約11.600ドルと高額。1年次は全寮制でそれ以後もキャンパス内の寮に住む学生が多い。8学部があるがそのうち学士号を出すのは地球科学部、工学部、文理学部の3つ。学士課程の学位はアーツ学士かサイエンス学士の2種類。
12)アーツとサイエンスの学士学位の中にも、副専攻の履修やオーナーズ履修の選択肢があり、「成績優秀学士」「オーナーズ学士」「語学に堪能な学士」と記載された成績証明書が存在する。
13)「導入セミナー」1・2年生を対象とした少人数セミナー。3クオーターごとに年間を通して開講される。テーマは教員が自由に決め、多くが自らの研究領域に関するもの。学部を持たない医学研究科を含め、60学科以上から200以上のセミナーが開講されている。
14)このセミナーの趣旨は、ある研究領域の探求のプロセスを、研究の第一線にいる専任教員から学ぶこと。加えて、教員と学生とのメンター関係を、大学入学後の初期段階で築くことも目的としている。初歩的な内容のものから、最先端の研究プロジェクトに教員とともに取り組むものまである。
15)導入セミナーは、1年生対象、2年生対象、2年生対象の教員との対話重視型の3種類がある。定員に満たないセミナーは他学年も履修できる。学生は各クオーターあたり最大3つのセミナーを履修できる。(日本で言うなら、1・2年生の2年間で18の専門ゼミに入れるようなもの!)
16)セミナーは必修ではないが、その多くが卒業要件には入っている。定員は1年セミナーが16名、2年セミナーが14名、2年セミナー対話重視型に至っては、なんと定員5名。テーマは「レーザーと光量子」「北米のエスノグラフィー」「スポーツ医学」「女性の人生を執筆する」など。
17)「ソフォモア・カレッジ」夏期休暇中に実施され、教員の研究フィールドにおいて、実際の研究活動を体験する合宿形式のプログラム。9月中の約2週間である。2007年度は19コースが開講。定員は12~14名。主な参加者は新2年生で、書類審査や成績で教員に選抜される。
18)ソフォモア・カレッジを開講できる教員は、研究や教育実績に優れた教員に限定されている。海外調査や実験をするコースもある。調査旅行に出かけていない時期は、学生はキャンパスの寮で、教員と2名の上級生アシスタントと共に生活する。
19)共同生活の2週間の間、毎日2時間程度、担当教員によるセミナー、そして午後や週末は遠足や映画鑑賞、全学的な学習支援部門による、話し方や書き方、プレゼンテーションスキルのワークショップ、2年次以降に履修できる様々なプログラムの説明などが行われる。(日本の大学との違いが……)
20)ソフォモア・カレッジは夏期休暇中の自由選択科目の一つだが、参加費用が1300ドルかかる。ただし大学から800ドルの奨学金が出る。この費用には、授業料、寮費、生活費、書籍代、旅費等が含まれる。科目は「アマゾン調査」「コンピュータ・チップを作る」「演劇を学ぶ」など。
21)「オーナーズ・プログラム」主に4年生を対象にした、学生が発展的な研究や分析を専任教員の指導のもとで行うもので、詳細な研究やフィールドワーク、実験とそれを総括した論文を書く。論文執筆と4年次春の研究発表会での発表が義務である。専用の科目群を履修。全学生の25%が履修する。
22)オーナーズ・プログラムに参加できるのは、所定の基準を満たす優秀な学生のみである。おおむねGPA3.0~3.5以上が条件で、志望動機や研究計画を書いた応募書類を提出しなければならない。
23)「オーナーズ・カレッジ」オーナーズ・プログラムに参加が決まった学生を対象とした合宿形式のプログラム。3年次と4年時の間の夏期休暇3週間に実施する。その目標は、1.学生が研究に専念できる時間を提供し、研究を進めさせる(つづく)
24)2.学生の研究領域における教員や大学院生からのメンタリングを受ける機会を作る 3.オーナーズに取り組む学生同士のつながりを学問領域内外に関わらず促し、知的なコミュニティの意識を育ませる、の3つ。
25)担当教員や院生による研究領域に関するセミナーやワークショップ、文献購読と討論、図書館の利用法や研究器具の使い方、統計資料やソフトウェアの使い方、研究プロジェクトや論文執筆のプロセスの紹介、学生相互の研究計画や論文計画のピア・レビュー等を実施する。
26)寮に住む学生間の交流を促すイベントもある。劇や映画、ピクニック、コンサートや博物館などに出かける。研究を行う上で必要な一般的なスキルについてのワークショップも開催し、指導教員との有効な関係の築き方、博士論文研究や学士課程卒業後の奨学金についての説明などもある。
27)オーナーズ・カレッジを実施している学科は限られており、2007年度は20学科。学生の参加は百数十名にとどまっている。参加は無料で、単位は出ない。(「学生の研究活動に関する支援」の話が丸々残っているが、長すぎるのでまずここまででいったん終わり)END
後編に続く
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