8/27 東京大学i.schoolでロジャー・マーティンの講演 |
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1)東京大学i.school夏のシンポジウム「ビジネスデザイナーの時代—デザイン思考をどう実践するか」で、トロント大学ロットマン経営大学院ロジャー・マーティン学長の講演を聴いてきたのでツイートします。
http://ischool.t.u-tokyo.ac.jp/programs/seminar/symposium_aug11
2)カナダを代表するトロント大学において、ファイナンスを中心に、世界的にトップレベルの評価を受け続けてきたビジネススクール=ロットマン経営大学院を、創造的実践の学びの場に変革し、デザイン思考研究の聖地へと導いたのがロジャー・マーティンです。
3)彼は、論理的思考と創造的直観を効果的に融合・活用することをデザイン思考と位置づけ、その実践を担う人材、すなわち「ビジネスデザイナー」こそが、これからのイノベーションを牽引すると主張します。
4)そして、ビジネスデザイナーの育成を、芸術大学(アートスクール)ではなく、ビジネススクールという、これまで論理的思考に特化した教育を進めてきた機関に求め、成功を収めてきました。以下、同時通訳をメモしたものを書きなぐります。
5)私の関心はイノベーション、とりわけ、なぜ、いろんな組織はもっと革新的にならないのかに関心があります。組織の中のイノベーションに現在満足しているかと講演などで訊くと、満足しているという人は5~20%ぐらいしかいない。
6)つまり、80~95%の人は不満なのです。必ずしもお金も時間もリソースもないわけではありません。実際に人もモノも時間もお金もかけているのに、満足していない。なぜ組織の中のイノベーションに不満なのでしょう。
7)それは、組織の中には、イノベーションを殺す人がいるのです。そこに気が付けば、またイノベーションができます。ビジネスデザイナーになれるのです。なぜイノベーションを殺すのか。2つの思考パターンがあります。1つ目は分析的思考です。
8)科学的手法で、いろんな分析・解析をする。その中には2つの論理があります。すなわち「真実か、真実でないか」。演繹的な論理、または帰納的な論理です。これは、定量化できるから便利な手法です。IQテストもそうです。でも、
9)IQテストの得点は、30%ぐらいしか自分の将来の予測にはならない。つまり人生の70%は知能指数は関係ない!ということが、大規模な調査で分かってきました。相関関係はあまりないのです。でも、私たちは将来を予測したい。
10)そこで、EQという考え方が出てきました。EQの試験の中身は、共感や人との交流です。これは定量化できません。有効性、信頼性が犠牲になります。これがどうイノベーションと関係があるのでしょうか。事業の世界は、科学的信頼性の高まりを要求しています。
11)ビジネスの世界では、定量法がどんどん導入されています。データを集めて分析する。これは悪いことではないが、企業が分析的思考に偏ると、信頼性に偏ると、有効性が減るのです。欲しい結果が減っていく。それは、証明できないことがあるから。
12)必ず成功するということは、証明できません。新しいアイデアが実行前に成功することは、誰も予測できないのです。やってみないとわからない。組織で新しいアイデアを出すと、「証明しろ」と言われます。そして実現しない。
13)できないんですよ、証明なんて。新しくないアイデアなら話は通ります。でもそれは古いアイデアです。このことが、会社でイノベーションをつぶしているのです。管理者は、正しい質問をした気になっている。これは良い管理意識だ。でも、正しくない。
14)新しいことをやる会社と、同じことばかりやる会社があります。ダメな会社は、もっと分析しよう、もっと科学的にやろう、もっとデータを集めよう、そして確実にライバルに追いつこう、とします。絶対に追いつかない。
15)大企業では、分析的思考が決定的勝利を収めています。それは5~20%の人にとっては、イノベーションなのです。これはいいことかどうか? なぜ企業は想定するだけではいけないのか。十分な分析が必要なのか? 新しいものが有効活用されていないのが問題です。
16)新しいコトを、世の中でどう実現していくのか。昔は謎でした。なぜ物が落下するのかがわからない。しかしブレークスルーが起きます。ニュートンが発見するのです。こうして謎ではなくなりました。その価値は、経験則になるから、他の人が考えなくても良くなるのです。
17)そしてアルゴリズムが出てきます。方程式です。成功のための方程式ですね。謎からアルゴリズムになった。これが大事。効率が良くなるからです。知識によって経験則はアルゴリズムになる。「謎」は効率が悪い。多くの謎が大学で研究されています。
18)経験則に頼れば、効率は良くなります。謎であった時代よりも、アルゴリズムになれば、便利で都合が良い。企業にとってどんな助けになるか。マクドナルドという会社があります。この会社にとっての「謎」は、どんな風にすれば迅速なサービスを提供できるか。
19)そしてメニューを少なくする、すばやく提供する、マシンでどんどん提供するというイノベーションをし、これが経験則になりました。この方程式でどんどん発展したのです。誰でもハンバーガーが作れるようになりました。どこで売れば儲かるかも研究しました。
20)このアルゴリズムに基づいて、マクドナルドは大きく発展しましたが、10年で飽和状態になりました。しかし次は世界中に展開しました。これがアルゴリズムの力なのです。「謎→経験則→アルゴリズム」にして、大きなメリットを持ちました。
21)これは、分析的思考ではできません。事前に分からないからです。だから大企業は問題に直面します。創立者は、謎をアルゴリズムにします。ところが会社が大きくなると、「前もって証明しろ」「分析しろ」となる。
22)マクドナルドはサブウェイに世界の店舗数で負けました。マクドナルドのアルゴリズムが弊害になったのです。同じことばかりするようになった。「もっと分析して」「もっと洗練されたやり方で」の悪循環になりました。
23)ビジネスデザインとは、組織としてうまく、長く、継続するためには、一度だけの成功ではなく、謎をどんどん解決していって、アルゴリズムを作って、次の謎に取り組む。謎→アルゴリズム→謎、この繰り返します。
24)2つのことが必要です。1.現段階において有効活用できるものはする。2.次の段階に備えて、探究をやめないこと。20世紀後半、革新的な事件が起きました。ソフトウェアの誕生です。コンピュータソフトウェアは、この世界の知恵のあり方を変えました。
25)知識や知恵をソフトウェアに変換し、アルゴリズムとして運用できるのです。今までは人間がやるしかありませんでした。ボーイング777を自動運転で着陸させられるようになったのです。
26)ソフトウェア企業の規模の拡大には、限界がありません。すべての知恵が収まるからです。我々の知識の産物は、ソフトウェアになります。健全な企業とは、有効活用と新しいことへの挑戦の両立です。教育の中で自然にこうした人間は育まれてこない。
27)企業の中でもこうした人が育たない。分析的思考と直観的思考のバランスを取る。それがビジネスデザインです。直感だけで組織運営はできません。正しいとは限らないからです。スティーブ・ジョブズも一度クビになりました。信頼性なく直感だけでやったからです。
28)一方、今知っていることだけをやっていると、なえてしまう。必要なのは組み合わせです。探究、研究は絶対に絶やしてはいけません。新しいものは分析的思考では証明ができないからです。新しいアイデアはどんどん芽生えますが、分析的思考では現れない。
29)そこで3つ目の「仮説的論理」が必要です。Googleは、メディアのルールを活用していません。1社しかないから他者と比べようがない。しかし、頭の中で論理のジャンプをする。最善の説明が付く範囲で考える。将来へ向けた早期発見ができる。
30)今の企業にそれができるのか。証明しないとだめ、「実証せよ」と。これは危険な言葉です。イノベーションを破壊する言葉です。仮説的な論理があれば、アイデアを出した人に恥をかかせてはいけません。事前に証明できることなんか、新しいアイデアじゃない。
31)でも結果を出さないといけません。新しいアイデアを通す時には、判断が必要です。いろんな試みをすることで、イノベーションを起こすしかない。分析はいつも過去を分析して将来を予想しています。まだ起きていないことは、分析できないのです。
32)将来のことを語るには、イノベーションばかりではなく信頼性が必要です。イノベーターは未来だけを見ています。未来を見ながら過去を語らないといけない。半年後に「現在」になっている「未来」を、「過去」である「今」語る。「過去」を作りだすのです。
33)半年後、CFO(最高財務責任者=イノベーションをつぶす管理職)は言います。「なんで半年前に言わなかったんだ」と。半年前には自分で握りつぶしておいて。信頼性思考が理解でき、分析的思考が理解できる。この両方が理解できる人が必要です。
34)双方の論理が分かる人が最も重視されます。ジョブズのような人。変わりものでもなく、組織だった人でもない人。これが、ビジネスデザイナーなのです。(終)
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