フランスの高等教育制度(後編) |

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41)私立学校は、わずかな収入しかない者を優遇する政策を頻繁にとっている。たとえばパリ政治学院は、家族の収入に応じて学生の登録料を変動させています。ときには学生が登録料を免除された上に奨学金の支給を受けるということも生じる。
42)高等商業学校や高等商業科学研究学校といった商業系のグランド・ゼコールでは、学費の減免措置をとり、政府の社会的奨学金基準を満たす学生にたいして、各学校独自の奨学金を支給している。これらの学生は学費免除を受けることができる。
43)また、生活費の一部を学校に負担してもらうことも可能。フランスでは一般に第3段階の学生(博士論文準備中の学生)は、博士論文の執筆中に報酬を得ることができる。それは国、地域圏、企業からの支給であったり、また中等教育機関(中・高等学校など)で
44)教員として働けるケースもある。いずれにしても、博士論文準備中の学生は支援を受けられるという原則が確立している。
45)最後に留意すべきなのは、将来一定のカテゴリーの公務員になる者には在学中から給与が支給される、ということである。どのような学生がこの資格を有するかというと、まず、陸軍学校、理工科学校、高等師範学校の学生。さらに国立高等鉱業学校(工業省)、
46)国立土木学校(設備省)、国立行政学院(ENA)などの学生である。いずれも将来国の高級官僚になることが予定されている学生である。このような学校への入学は、国による青田買い(事前採用)にあたるのではないか、とも考えられる。
47)2. 4 学生支援体制の力と限界 2008年から2009年にかけて、フランスの高等教育機関に在籍する223万2,000人の学生の4分の1が、直接の支援を得てきた。大学へのアクセスは民主化された。しかしながら、名声があり、入学が難しく、
48)入学後の勉学条件が整っているグランド・ゼコールにおいては、比較的倹しい家庭出身の学生数は増えていない。増えていないばかりか、ここ数十年前と比べると、その学生数は減っている。
49)大学にも依然として課題がある。登録料がほぼ無料であるということは、大学を国や地方公共団体に従属させることになる。学士課程を終えて修了証書を得る学生の割合は低い。修士課程を修了すれば、学生はより有利な職につく機会が高まるはずだが。
50)最後に短期課程についてみれば、それは各地域レベルでは十分に就職に結びついているが、それが全国的または国際的に学生を動員しているかといえば、けっしてそうは言えない。(制度の欠点を自ら書く点は、フランス政府は驚くべき見識だ)
51)(3) 現在進行中の課題 3. 1 高等教育の大衆化 1988年に、国民教育担当大臣は、高校の最終学年の生徒の80%がバカロレアを受験することを目標にした。当時の高校生のバカロレア受験率は35%程度。
52)フランスはこのようにして、この国の青年全体がより広く高等教育にアクセスできることをめざした。今日、バカロレア合格者は最終学年の生徒の66%に達している。高等教育へのアクセスは拡大し、2008年には新たなバカロレア合格者の78.2%が、
53)いずれかの高等教育機関に入学した。今日では、1世代の約53パーセントが何らかの高等教育を受けている。今日の高等教育制度は、このように増大する入学者に適応しなければならない。大学の伝統的な課程、それに技術短期大学は、これらの人々を受け入れて
54)きた。グランド・ゼコール準備学級の数も、この時期に明らかに増加した。大学はまた、フランス社会の新たな要求にも応える教育を行わなければならない。それはとりわけ職業教育課程を発展させることを通じて。
55)たとえば職業高校や高等専門教育免状(かつてのDESS、現在は職業修士)の充実がそれにあたる。また、以前はグランド・ゼコールのみで行なわれていた数ヶ月にわたる企業研修も、一般的に行なわれるようになっている。
56)というのも、こうした研修が企業の新しい幹部候補生の積極的な研修の場となっているからだ。
57)このように、高等教育機関の収容能力を高めること、そして奨学金の数を増やすことが必要になった。これらの改革が高等教育機関を支える団体にとって負担になったことは確かである。
58)3. 2 フランス高等教育制度がヨーロッパの高等教育制度および世界の高等教育制度に組み込まれる(ボローニャ・プロセス) 1999年にボローニャ協定が署名された。これにより、ヨーロッパ各国政府は、ロシアやトルコなどの近隣諸国と連携してヨーロッパ教育
59)を調和させることを決めた。その目的は、ヨーロッパ教育をよりわかりやすいものにすること、そして、経済統合により生じヨーロッパ内部で増大しつつある流動性の要求に応えることであった。
60)教育課程が均一化され、基準となるヨーロッパ免状が定められた。フランスではバカロレア合格から数えて学士3年、修士5年、博士8年という修了年限が定められた。工業技術学校免状は、修士号と同等に扱われることになった。
61)このようにして、現在のフランスでの基準免状である修士号レベルの調和化、および研究職へのアクセスを確保する免状である博士号レベルの調和化が、ヨーロッパ規模で達成された。
62)他方、大学間単位移行制度(ECTS)が発足した。最後に、修士レベルおよび博士レベルのヨーロッパ内部での流動性計画が強化された。奨学金が新たに創設され、学生は、家族の負担を求めることなく、外国滞在から生じる追加費用に対処できるようになった。
63)2008年には、フランスで学ぶ学生の12%を海外からの留学生が占め、そのうち7%はフランス政府給費留学生だった。一方で、エラスムス・プログラム型の海外留学プログラムが修士課程以外のレベルにも拡がり、トップクラスの学校の修士課程に新しいコースが
64)創設されたりして、フランス人学生が海外留学をする割合も益々多くなってきている。
これらの動きはフランスにおいて、いくつかの再定義をもたらした。上級技術者免状(BTS)や技術高等証書(DUT)などの短期課程に対応する免状は、この新たな制度のなかで再定義
65)を見出すことができなかった。しかしながら、これらの短期課程を補完して職業学士を取得し、さらには場合によっては修士号を取得するという可能性が強化された。
66)私的教育機関はこれまで管理や戦略的選択の自治を享有してきた。ボローニャ・プロセスのなかで、フランスはこの自治を高等教育機関全体に拡大する道を選んだ。2007年に開始されたフランス高等教育改革は、大学にたいして、私的教育機関に匹敵する自治能力を与えた。
67)2010年には、フランスの大学の60%が管理自治能力をもつ地位を選択している。そのような地位は、パートナーとしての外国大学との関係におけるフランスの大学の柔軟さを増大させている。
68)最後に、それぞれ異なる高等教育機関の運営が調和されることにより、各機関は地域組織(高等教育の地域的中核 : PRES)の下に結合することが可能になった。あるいは融合し、より大きな国際的存在感のある組織体になることが可能になった。
69)このように伝統的大学機関を選抜的教育機関に近づけることにより、フランスの学生が外国の学生と接するようになり、エラスムス計画やエラスムス・ムンドゥス計画のような脱国境的な学生移動への支援がなされることにより、これまで不利な立場にあった学生たちにも新しい可能性が開けてきた。
70)3. 3 新たな道を求めて フランスは、良質の高等教育の機会を若者に与えることに配慮してきた。そのための手段をいくつかの隣国とともに実施して、資金的障害のせいで良質の高等教育への若者のアクセスが阻害されないようにしてきた。この政策の効率性を強める可能性についての考察は続けられている。
71)学士課程の成果を改善することは重要な目標である。政府が発足させた「学士計画」は、高等教育研究省が予定している行動のなかで注目すべき地位を占めている。この計画の予算は、きわめて困難な予算状況のなかで、2010年に6.8%増加した。
72)さらに、優れた教育課程にアクセスする方途についての検討と経験が続けられている。たとえば、政治学分野でのグランド・ゼコールであるパリ政治学院は、優先的教育ゾーンに属する高校の優秀な生徒を優先的に入学させるという積極的差別を実施している。
73)このZEPの高校の生徒はしばしば社会的困難に直面している。そのため、通常の選抜方式では例外的にしかこの名高い政治学院に入れない。最後に、グランド・ゼコール準備学級およびグランド・ゼコールへの入学方式の改革が、現在検討されている。
74)結論 フランスの高等教育制度は独特のものであり、そのなかでヨーロッパの隣国と共通するものはほんの一部しかない。良質の高等教育にアクセスする可能性を若者に確保することについては、広いコンセンサスが成立している。
75)ボローニャ・プロセスの枠組みにおける高等教育へのアクセスの一般化と高等教育の国際化は、新たな挑戦・課題であるとともに、切り札(チャンス)でもある。私たちは変化の最中(さなか)にある。日本と同様にフランスも、他国が選んだ方法(アプローチ)に注意を払っている。
76)上記の内容に関してご質問等のある場合は、下記までメールにてお問合せください。フランス大使館大学交流担当官 エリック・ドゥクルー eric.decreux@diplomatie.gouv.fr
77)以上、在日フランス大使館ホームページ フランスの高等教育制度(概要と近年の改革)http://www.ambafrance-jp.org/spip.php?article4034 から。(La fin)
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