「授業料に見合う利益」で測る米大学ランキング |
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0901B_Z00C13A8000000/
2013/8/15 7:00
(2013年7月24日 Forbes.com)
大学のランキングに意味はあるだろうか。米国4年制大学の授業料が総額で25万ドル(約2500万円)に迫るなか、大学ランキングには注視するだけの価値がある。
将来、米高等教育の歴史の研究者が、大学教育の大きな変化はいつ始まったのか振り返るとき、まず確実に2013年だというだろう。従来のリベラルアーツよりもSTEM教科(科学・技術・工学・数学)の重視という「カリキュラムの変化」と、キャンパスでの授業からオンライン授業という「授業形態の変化」は、この年から本格化するからだ。また、授業料の高騰と教育ローンの負担増、州からの助成金の削減、入学者の減少、卒業後の就職難も、この年を特徴づけている。だがそれ以上に顕著なのは、「アイビーリーグ」と呼ばれる東部の名門私立大学に属さない、西海岸の大学の台頭だ。
米トップ大学10校 順
位 大学名 所在州
1 スタンフォード大学 カリフォルニア
2 ポモナ・カレッジ カリフォルニア
3 プリンストン大学 ニュージャージー
4 イエール大学 コネティカット
5 コロンビア大学 ニューヨーク
6 スワースモア
・カレッジ ペンシルベニア
7 陸軍士官学校
(ウェストポイント) ニューヨーク
8 ハーバード大学 マサチューセッツ
9 ウィリアムズ
・カレッジ マサチューセッツ
10 マサチューセッツ
工科大学 マサチューセッツ
1位と2位が東部の大学ではなかったのは初めて。フォーブスの「トップ大学」ランキングは、フォーブスとCCAPが650校を対象にして調査する。今回は6回目。
今回、フォーブズ誌の「フォーブス トップ大学」ランキングで初めて、アイビーリーグ以外の2校が1位と2位を占めた。1位がスタンフォード大学、2位がポモナ大学だ。カリフォルニア州にある2つの大学が1位と2位の座についたのも初めてのことである。全米で最も質の高い州立大学はカリフォルニア大学バークレー校で、22位にランクされている。このランキングの変化がなぜそれほど重要かというと、東部の名門校が支配する時代が終わり、質の高い大学が多様化し、学生にとって選択肢が増える時代が到来したからだ。
高等教育の勢力図のこの急速な変化は、今年の本誌の「トップ大学」最大のテーマである。過去6年間、本誌はワシントンDCに拠点を置く、高等教育にまつわる費用や生産性などをテーマにする研究機関のセンター・フォー・カレッジ・アフォーダビリティー・アンド・プロダクティビティー(CCAP)と独占契約を結んできた。650校の単科大学(カレッジ)と総合大学(ユニバーシティー)を対象にした本誌の評価がほかの大学ランキングと異なるのは、「インプット(元手)」よりも「アウトプット(成果)」のほうが大切であると堅く信じる点にある。本誌は他誌のように、高校での成績や大学進学適性試験(SAT)など、学生が大学に入れる条件をそれほど重視していない。本誌が着目しているのはあくまで「投資利益率(ROI)」、つまり学生が大学から何を得ることができるかという点にある。
本誌は、これから十万ドル単位の授業料を支払うことになる大学に入学予定の学生(およびその家族)が最も関心を抱いている要素に着目している。すなわち、授業内容は充実しているか? 4年で確実に卒業できるか? 卒業証書を得るために巨額の負債を負うことにならないか? 大学を卒業したらよい仕事に就けて、自分が選んだ職種でリーダーになれるか? ――といった要素だ。無駄な出費に終わるような大学選びの評価基準は一切排除した。
2013年の「トップ大学」で分かった主な変化は以下の通り。
■若者よ、西をめざせ
6月に行われたスタンフォード大学の卒業式=Stanford University
この6年間で初めて、フォーブズ誌が作成したリストの1位と2位は、太平洋岸(西海岸)の大学が占めた。今年、金メダルを獲得したのはスタンフォード大学で、銀メダルはポモナ大学が獲得した。カリフォルニア大学バークレー校は、他の州立大学を引き離し、22位についた。この3校はいずれも、最初の1年間で学生が退学しなかった比率が高い(スタンフォードから順に、98%、99%、96%)。また、全米の大学と企業で構成する学生の就職支援団体であるナショナル・アソシエーション・オブ・カレッジ・アンド・エンプロイヤー(NACE)の統計によれば、この3校は卒業生の平均初任給も高く、2012年の新卒者初任給の平均値4万4259ドルを上回っている(スタンフォードから順に、5万8200ドル、4万9200ドル、5万2000ドル)。
■ハーバードはどうした?
春には外で講義。イエール大学で=Michael Marsland/Yale University
アイビーリーグをあなどってはいけない。むしろ善戦している。8校いずれもがトップ20位以内にランキングされているのだ。プリンストンとイエール、コロンビア大学がそれぞれ、3位、4位、5位を占めている。2012年と2011年、6位につけていたハーバード大学は今年8位に順位を下げている。いっぽうペンシルベニア大学は6位順位を上げて11位を占めた。ブラウン大学は7位上昇して12位に、ダートマス大学は9位上昇して16位にランキングされた。だが最も躍進著しいのは、51位から一挙に19位にランクされたコーネル大学である。
米国人に限らず、数百万の学生にとって、アイビーリーグは依然として揺るぎない地位と価値を保っている。
■躍進する名門パブリックスクール(公立学校)
今年は、軍学校をはじめ9つのパブリックスクールが上位50位以内にランキングされている。ミシガン大学アナーバー校は30位につけ、初めて50位以内のランク入りを果たした。パブリックスクールはどこも評価を上げ、上位100位のうち23校が、上位250位のうち51校がランク入りしている。これはどんな大金を払ってでもアイビーリーグ卒業の箔をつけようとする風潮への反動だろう。名門の州立大学では、州内出身者であれば、私立大学よりはるかに安い授業料で質の高い教育を受けられる。高額の教育ローンを抱えたくない学生が増えるなか、パブリックスクールや公立大学は選択肢として魅力を増している。
■きっちり4年で卒業
ハバフォード、ポモナ、スワースモアの各大学は、4年で卒業する学生の比率が91%と傑出している。この比率が一番低いのがコロラド州のメトロポリタン州立大学(4%)と、テキサス・サザン大学(5%)だ。きっちり4年で卒業できれば、それだけ支払う学費が少なく、家族を含め負担が減る。マサチューセッツ州ボストンのノースイースタン大学(236位)をはじめとする一部の大学では4年で卒業する学生の比率が0%だが、留意すべきは、こうした大学の学生が5年制プランを選び、企業でインターンとして働く「実地教育」を受けている点だ。
■教育ローンの活用
アイビーリーグの各大学は、卒業証書に値打ちがあるだけでなく、教育ローンを利用する学生の比率が低い。教育ローンを利用している学生の比率はイエール大学でわずか9%、プリンストン大学では10%、ハーバードでは11%にすぎない。いっぽう、ノースカロライナ州のセーラム・カレッジとイリノイ州のトリニティ・インターナショナル大学では学生の90%が教育ローンを利用している。またミシガン州のヒルスデール・カレッジ(196位)とコネティカット州のUSコーストガード・アカデミー(94位)では教育ローンを利用する学生が一人もいない。
■世界を視野に入れる
ほとんどの大学に留学制度はあるが、海外留学に積極的に取り組んでいる大学がいくつかある。たとえばケース・ウエスタン・リザーブ(89位)は、グローバルE3(エンジニアリング海外交換教育)プログラムを取り入れて、エンジニアリング専攻の学生が、授業料は米国内で支払っている金額のまま、海外の提携大学に留学できるようにしている。カレッジ・オブ・ウィリアム・アンド・マリー(44位)はスコットランドのセント・アンドリューズ大学と提携し、同校でも学位を取得できるようにしている。またニューヨーク大学(56位)は、アブダビや上海、シンガポールに総合キャンパスがある。
■オンライン教室
MOOCを通じて講義中(ペンシルベニア大学で)。「単位」は「単位時間」と言われるようになり、オンライン教育は従来の学校教育に風穴を開けている=AP
授業内容のデジタル化にともない、進取の精神に富んだ大学では授業をオンライン化するだけでなく、学位もオンラインで取得できるようにして、この時代の流れを取り入れている。オンライン教育に積極的な主だった大学としては、ペンシルベニア州立大学(93位)、マサチューセッツ大学のアマースト校、ボストン校、ダートマス校、ローウェル校、マサチューセッツ大学医学校が共同で進めているUMassオンライン、アリゾナ州立大学(226位)などがある。2013年の春、これらの大学には8000人以上のオンライン学生が入学した。
■急増するMOOC
ウェブ上で無料参加できる大規模講義(MOOC)でよく知られているものはいずれも本誌の大学ランキングの上位校で生まれている。エデックス(edX)はハーバード大学とマサチューセッツ工科大学(9位)が発祥の地だし、コーセラ(Coursera)とウダシティー(Udacity)はスタンフォード大学で生まれた。現在では、数多くの大学がMOOCを取り入れている。シカゴ大学(14位)とニューヨーク州立大学のシステムはさきごろ、コーセラを導入している。またサンノゼ大学(272位)はウダシティーに参加しているが、成果は成功例もあれば失敗例もある。エデックスはウェスレー大学(23位)とライス大学(33位)で導入されている。
■ランクを上げた大学、下げた大学
長らく1位もしくは2位の座を占めてきたプリンストン大学が、僅差ではあるが、初めて3位に転落した。2008年以降、リベラルアーツのトップ校として君臨し、2010年と2011年には1位にランクされたウィリアムズ・カレッジが今年は9位に転落した。順位を最も上げたのが、米国で唯一、学生全員が黒人男子の大学として知られてきたモアハウス・カレッジで、235位アップして285位にランクされた。2012年には369位だったニューヨーク市立大学シティカレッジは、今年137位までランクを上げた。
いっぽう、去年216位だったウィスコンシン・ルセラン・カレッジは537位に、111位だったトマス・アクィナス・カレッジは415位に転落している。宗教団体が運営する大学でランクを上げたところはいくつかあるが、とりわけ末日聖徒イエス・キリスト教会が運営するブリガム・ヤング大学は93位から75位にランクアップしている。2012年に109位だったチャーチズ・オブ・クライストが運営するペパーダイン大学は、現在100位にランクされている。
■新時代の米国のリーダー
大学卒業後に社会的成功を果たした人びとを決める基準は、本誌が以前項目立てていた「紳士録(Who’s Who)」ではもはやなく、むしろ新規につくった「米国を率いるリーダー」にあることを実感する。これが今回のランキングの変化をうながした本当の要因だ。この人々のリストは、「パワーウーマン」「30アンダー30」「ミダス・リスト」など、フォーブズ誌の数あるランキング特集シリーズに基づき、さらに芸術や科学の分野で賞を受賞した実績などの情報を総合して作成された。その結果、以前ほど排他的ではなく民主的で大きな影響力を持つ人々と一流大学のリストが出来上がった。
■失望させた大学
今年、フォーブズ誌では、ランキングの評価基準となった、米国教育省に提出するデータを改ざんした大学に新たなペナルティーを科した。過去2年間に、バックネル大学、クレアモント・マッケンナ・カレッジ、エモリー大学、アイオナ・カレッジの4つの大学が虚偽のデータを提出したことを認めている。この4校は、2年間、本誌のランキングから抹消される。
By Caroline Howard, Forbes Staff