2012.7.2 関西大学教学政策研究会 |
1)関西大学には、事務職員の有志で行う自主研究会「教学政策研究会」がある。自主研究会とは、関西大学が個性輝く教育研究機関として発展していくため、積極的に広く職員が今後の政策について意見を交換し、研鑽し、具体的な改善提案をすることが目的だ。
2)研究会は、事務職員の代表者が、常務理事に研究会設置計画書を提出することで設置許可を得る仕組みになっている。教学政策研究会は10名の職員で構成されており、所属部課は広報課、授業支援グループ、教務事務グループ、システム開発課など様々だ。
3)教学政策研究会の研究内容は、「学生中心」と「根拠」をもとに、学生の学習意欲や成果を向上させるための教学プログラムの開発や教育改善の推進を提案する。なかでも研究方法として最近注目されているIR(Institutional Research)機能に注目し、研究を進める。
4)関西大学では、2009年に長期行動計画が制定され、「考動力」あふれる人材育成のため、カリキュラム改編や全学共通科目等でのアクティブラーニングの展開などの教学改革が進められている。学生支援に関しても、課外活動支援やキャリア支援など、入学から卒業に至るまでの学生支援をトータルに展開している。
5)2008年12月24日には、中央教育審議会の答申「学士課程教育の構築に向けて」が出され、「学士力」の議論がされている。2010年7月22日には日本学術会議が「大学教育の分野別質保証の在り方について」の提言をし、大学に対し、教育の質の保証を要求している。
6)このような学内外が変化する時代に、大学教育そのもののあり方について、幅広く利害関係者が認識を共有することが求められる。学内では学習履歴の多様化(ユニバーサル化)や卒業後の慢性的なキャリア不安など学生を取り巻く環境への対応が急務である。
7)大学を取り巻く環境は、各種答申や法制化、分野別質保証など、Discloser(情報公開)から、大学のAccountability(説明責任)、USR(大学の社会的責任)へとパラダイムシフトしており、外部からの大学の質保証への強い要求に応えることが求められている。
8)教学政策研究会では、学生の学習意欲や成果を向上させるために、教学プログラムの開発や教育改善の推進を考えている。研究方法としてはIR(Institutional Research)機能に注目し、研究を進める。
9)IRとは、「高等教育機関レベルの計画立案や意志決定に有効なデータの分析および提供を行う組織的活動(Peterson,1999)である。日本で実践されているIRは学生実態調査や卒業生実態調査などであり、「教学IR」「大学IRコンソーシアム」などの動きはあるが、まだ一般の認知は低い。
10)いまだIRは発展途上であり、計画立案や意思決定に踏み込んで議論されている例は少ない。そこで、まずITトータルシステムなど関西大学独自のIR機能を探り、関西大学のIR機能について、教学政策研究会のメンバーで研鑽をする。
11)次に、IRの視点で、学生(教職員)意識調査を行うことで、関西大学の実態を明らかにし、学生支援や教学について考える。GPAの高い/低い学生の特徴、時間外学習や課外活動の実態、就職内定率と学生生活の関係などを調査し、学生像を再認識する。
12)これに加え、教職員の意識調査をし、学生実態と教職員の意識の差異を調べる。これらIRの可能性や実態調査を踏まえ、政策的な議論を行う。学生実態を把握した「学生中心」を「根拠」として、政策や企画立案・提案をする。
13)まとめると、IRを通じた学生実態の把握、それを踏まえた政策的な提言、という、時系列的な視点で研究を進める、職員による研究会である。
14)IR機能を担う事務部局がある大学は16.9%と多くない(坂本孝徳,2011,『リクルートカレッジマネジメント』No.166)が、新たな企画・立案のためにIR機能の導入は今後不可欠になっていく。職員が主導で、教員と一体となり、学生の成長を支援し、大学の価値を社会に発信していく取り組みとして、関西大学の動きに注目である。
15)2011年夏に11人の職員で発足した「関西大学教学政策研究会」は、まずIRに注目し、2011年10月~11月に学生に対するアンケートを実施、分析を行い、学生実態の把握に着手した。大学のインフォメーションシステムを利用し、在籍する全学部生を対象にWeb上で任意に回答を求めた。
16)アンケートの有効回答数(率)は2034件(7.25%)。調査内容は学生生活や教育環境に対する評価、高校時学習経験、成長実感、属性などで、回答者は1年生32.7%、2年生27.0%、3年生21.6%、4年生18.7%。
17)アンケートの分析方法は、学内のデータ(所属学部、学年、性別、GPA、学部内序列、出身高校、入試形態など)とアンケートデータを接続させたクロス集計などで行った。
18)関西大学職員有志による「教学政策研究会」が、関西大学の全学生を対象にしたアンケートを実施した。
アンケート結果では、大学受験時の志望度を訊いた。すると第一志望53.8%、第二志望24.4%、第三志望12.7%、第四志望以降9.1%となった。これに、もう一度本学を受験しますか?(第一志望として受験41.1%、第二志望32.8%、第三志望16.2%、受験しない9.8%)を掛け合わせて、志願度を出した。志願度はDown(下がった)が23.8%、Flat(変化なし)が26.3%(第一志望を除く)、Flat(1)第一志望のまま35.9%、Up(上がった)14.0%となった。これを高校の区分に当てはめたデータがあるが、どう高校を区分しているのかが分からないので、論評のしようがない。
続いて、高校時代の1日平均勉強時間をアンケートしている、志願度Up組とDown組に分けているが、Up組は1日2~3時間が43.7%と最も多い。Down組は2~3時間が40.9%だが、1時間、1時間未満、ほとんどしなかったが合計で41.3%に及び、入学後に大学に対する評価が下がった学生の方が、高校時代に勉強していないという面白いデータが出た。一体彼らは大学に何を期待しているのだろうか。
入試種別を調べると、センター利用組はUpが29.7%と最も高く、続いて一般入試組19.5%となる。アラカルト入試(24.9%)、付属校入試(26.7%)、指定校(32.6%)の順にDownが増していく。センター・一般試験組が入学後の満足度が高く、付属・指定校組が低いというのは、結構恐ろしいデータである。ちなみに、同様の調査を学部別でしたところ、顕著な格差が出た。これはつまり、学部別の学生の満足度に大きな差があるということである。さすがに公表データでは学部名は隠されているが、実際、入学後の学生が、各学部の提供する教育によって、かなり満足・不満の差があることがわかる、これもまた恐ろしいデータである。職員主導でこうしたアンケート結果を出し、教員を啓発するのだろうか。
授業満足度は、Up組よりもDown組の方が、当然ながら低い。しかしこのデータも、センター・一般試験組がUp組であることを考えると、学力が高くやる気がある層よりも、なし崩し的に入学した層のほうが、授業満足度が低いと考えられ、彼らのために授業を工夫してやる必要があるのかどうかは、疑問である。コミュニケーション力の質問でも、Up組よりDown組のほうが、「伸びた」という回答は少ない。このアンケートは図らずも、入試方式による学生の満足度や成長の大きな差をあぶりだした。さらには、学部間で教育の質に差があることもバレた。今後、職員による教学政策委員会がどう教育を改善していくのか、大変注目される。
≪研究会メンバー≫
杉本仁嗣 教務事務グループ
立仙和彦 点検・評価推進グループ
中川雄弘 広報課
竹中喜一 授業支援グループ
河上典江 授業支援グループ
川瀬友太 授業支援グループ
吉末和也 堺キャンパスオフィス
東條正範 堺キャンパスオフィス
福田 聡 入試広報グループ
浅井健志 ERC事務グループ
森田弘一 システム開発課