2015.7 島根県立大学 出雲キャンパス 副学長 山下一也教授 インタビュー |
(写真)吉川洋子教授の看護過程論(ナーシング・プロセス)の授業。14人の受講生をいくつかのグループに分けて、グループディスカッションをする。
(写真)3年生全員必修(80人)の「小児臨床看護論」
私にとって、医学系の大学は、それほど得意分野ではないので、深入りしていないのが現状です。正直、国公立大学の看護学部なんて、どこも同じと思っていました。入試では一定以上の優秀な学力層の受験生が放っておいても集まるし、看護教育は国家資格だから、カリキュラムが固まっていて、各大学の個性を出しようがない(と思っていた)からです。島根県立大学は、浜田キャンパスの総合政策学部しか行っていませんでした。しかし、今回、看護学部の吾郷美奈恵教授の熱烈なアプローチにより、初めて、看護学部のキャンパスである出雲キャンパスにお邪魔しました。まだまだ私も大学を研究していく精進が必要だと痛感した次第です。
島根県立大学 出雲キャンパス 副学長 山下一也教授 インタビュー
──島根における看護大学は、他に、同じ出雲市に島根大学医学部看護学科があります。あちらは研究志向が強く、私たちは、より、地域志向が強い。島根県が設置している大学として、地域に根差し、保健師の育成、在宅看護、病気の予防や健康の維持、さらには、認知症やがん予防といった専門性を高めていきたいと考えています。
学生は、約6割が島根県内出身です。就職も6割が県内。隠岐をはじめ県内8か所、山間部や離島にも活動の拠点を設けており、実習などで使用しています。島根県内の多くの町には1つは病院がありますが、少子高齢化、過疎化の進行で、多くの病院が悩みを抱えています。国道9号線沿いの沿岸部の都市に人が集まりがちです。将来的には私たちは、交通の不便で人口が減少し、医療にも問題を多く抱える山間部や離島も質の高い看護を必要としていることを痛感しており、それらの地域の高校からこの大学に来て、また、地域に帰っていく看護師を育成したいと思っています。これは県立の大学の使命です。島根県は尼子、大内、毛利といった大名の時代から、山陽に人材流出する傾向が強く、若者は岡山、広島、山口に出ていってしまいます。広島との高速道路が開通し、これは加速しました。地域全体の課題の中で、看護に何ができるのかが問われています。私たちは、2025年を見据えています。もっともっとコンパクトシティが進むでしょう。こうした時代に必要とされるのは、「在宅看護のできるジェネラリスト」です。
公立大学とはいえ、受験生を増やし、入試の倍率を上げたいと考えています。それは、「他流試合」をするためです。今でも一般入試の倍率は9.3倍もありますが(2015年度入試)、さらに、全国から学生が集まる大学にして、交流人口を増やしたい。学生の半数(40名)は県内からの推薦ですが、一般入試の入学者と成績は変わらなくなりました。むしろ、入学後に成績が良くなる学生もいます。
厳しい少子化の中、島根県内の高校は、全国に魅力をPRし、生徒募集をするようになりました。看護師や保健師の育成という面で、県内高校とは連携していきたいと考えています。島根県内では私たち2大学を除くと、4年制の看護大はありません。まだ、看護教育は専門学校という風潮が深く根付いています。しかし、4年制大学は、ゆとりをもって教育ができます。3年制の短大や専門学校は、どうしても教えられたもの、与えられたものを詰め込む教育になりがちです。それに、専門学校の先生は、研究者ではありません。もちろん、それぞれに役割はありますが、私たちは、看護のリーダーを育成したいと考えています。幹部、指導者になれる人材です。地位が高いから偉いという話では必ずしもありません。詰め込み教育を受けただけの人材は、5年、10年と働いていくうちに、バーンアウト(燃え尽き)しやすいのです。残念ながら、「自分でものを考えない」傾向があるからです。医療の高度化、看護の高学歴化の中で、チームで仕事をしていく上で、大学の4年間で余裕を持って学び、与えられる教育だけではなく、自ら考えて、問題を解決できるリーダー人材の役割は高まっています。そこで、来年からは定員5人の大学院も作りました。現役看護師のスキルアップも想定し、来年から緩和ケア分野の認定看護師養成課程コース(定員10名)も設置します。
現場の質が教育の質であることから、実習病院もその質が問われます。本学は島根県立中央病院と連携しています。さらに、地方の8か所の拠点。たとえば、私は石見川本という町で、エゴマ油の研究をしています。認知症の予防に効果的で、10年長生きできると言われています。これを世界に広めれば、島根の山間部が、高齢化や認知症の問題に取り組む先進地域になれます。メディカル・ツーリズムです。世界中の富裕層の高齢者が、健康を求めて押し寄せるかもしれません。島根は観光地もあるし、生活するにも暮らしやすい。学生は、1年次には高齢者の家庭訪問、2年次には離島や中山間地域でフィールドワーク、3・4年次は県内各地で実習です。島根の医療を知り尽くした人材、今後の島根の医療を支える人材を育てたいと考えています。(終)
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