2015.10.2 京都府立大学公共政策学科を取材する |
よき市民、公務員を育てたい
京都府立大学 公共政策学部 公共政策学科
窪田好男 准教授 インタビュー

(写真)窪田好男 准教授
「まちおこし」「まちづくり」「地域連携」に、多くの大学が取り組んでいる。だが、その実効性について、私(山内)は正直、疑問を感じていた。多くの大学が精力的に取り組んでいるそうした活動が、どれだけ、実際に学生たちの学びに結びつき、教育や研究に生かされ、地域に役立っているのか、不確かな面も多いのではないか。なかでも、私立大学で増えている政策と名乗る学部の多くは、法律、政治、経済などの教員の寄り合い所帯であり、教員間の連携も薄く、入学定員が数百人と多いため授業はどうしても従来型のマスプロ教育が中心であり、学生の多くが法学部や国公立大学と違って公務員になるわけでもなく、地域活動で個々の教員や学生の努力はあるとしても、学部としてそれほど魅力的かどうかは議論の余地がある。こうした中でも今回、京都府立大学の公共政策学科が、入学定員わずか50人という小規模な環境を生かし、優れた取り組みをしていると聞き、窪田好男准教授(政策形成・政策評価)にお話を伺った。
──私は生まれも育ちも京都です。京都府立北稜高等学校を卒業して立命館大学法学部に進学し、政治行政コース(当時)で政治学を学びました。でも、政治学は政治の現象を評論家のように説明する学問で、「じゃあ具体的に、日本の政治はどうしたらいいのか」「地方は、市民は、自治体は、具体的には何をしたらいいのか」に答えてくれなかった気がしたのです。そんなとき、公共政策分析・デザインの理論と手法の体系化に取り組んでおられた京都大学大学院人間・環境学研究科助教授の足立幸男先生(当時。現・京都産業大学客員教授)に出会い、政治学ではなく政策学を学ぶために京大の大学院に進学しました。足立先生が英書購読の非常勤講師として立命に来られていたのがきっかけでした。その後、神戸学院大学法学部に職を得て8年間奉職しました。岡田学長にお会いしたいんですか? なつかしいですね。岡田先生には法学部で大変お世話になりました。
2014.11 神戸学院大学 岡田豊基 学長インタビュー
http://tyamauch.exblog.jp/23393972/
2008年、故郷である京都の大学に公共政策学科ができると知って、公募推薦で京都府立大学に移りました。「地元を何とかしたい」という思いからです。また、大きな法学部の中で政策学を教えても、教えた学生が政策学そのものを生かして社会で活躍できるかどうか疑問を感じていました。「政策の担い手を育てたい」と強く思ったのです。
京都府立大学の公共政策学科は、入学定員わずか50人、公立大学ということもあり、学力的にも高い学生が揃います。これなら、政策のプレイヤーを育てることができるのではないか。政治学は評論、これはスポーツで言えばウオッチャーです。政策学はコーチやプレイヤーなのです。実際、公共政策学科の卒業生は、50人中20人は公務員に、20人は民間企業に行きます。民間では地元金融関係の企業も多いです。学生の半数は京都府民であり、京都から出たくない人が多いですね。1996年からは日本公共政策学会もスタートしており、政策学は単なる「法、政治、経済」の寄せ集めではない、新しい学問であることを、内外に示したいと考えています。
公共政策学科の教員は、法律系が4人、政治系が4人、経済系が4人の12人とバランスよく揃っており、さらに1名、京都府から派遣された実務家教員が、インターンシップや外部講師を招いたセミナーなどを担当します。これらの教員がそれぞれの学問分野のタコツボに入らず、政策学という新しい学問を確立するという意欲に燃えています。私たちの学科は机上の学問にとどまらず実践、すなわち習ったことを現場で実行する人間を育てます。公務員でも金融機関でも、習ったことをそのままやるのではなく、職場で自分なりにアレンジできる卒業生になってほしい。京都府内の自治体、民間企業、NPOでの実習機会が多くあります。教員の中には京都府職員として実務経験を積んだ教員がおり、主要な授業科目には京都府職員が研修として参加することもありますので、実務家と一緒に学べます。学生時代から地域の活動に参加したり、実務家と交流することで、政策のプレイヤーとしての力を付けてほしいと願っています。
なぜならば、政策学は社会から期待されているからです。具体的な政策を創れるからです。だから、1年生から「公共政策学入門Ⅰ・Ⅱ」という科目で、「政策の作り方」を学びます。同時に、「市民参加論」でファシリテーションを学びます。2年生は「ケースメソッド自治体政策」で、自分が市長や市の部長だったら、どう自治体を運営するかを体験的に学び、2年次のゼミにあたる「公共政策実習Ⅰ」では実際の公的機関(窪田ゼミは京都府や京丹後市観光協会)にゼミとして1年間関わり、机上だけではわからないことを、PBLやグループワーク形式で学びます。ここでは、自治体の政策のベタベタしたプロセス、泥臭さを学んでもらいます。グループワークをやることの難しさ、地域に入っていくことの大変さ、複数のプレーヤーの利害の調整など、公務員、政策に携わる者の、きれいごとではない現場を知ってもらうのです。
3年次は専門ゼミ以外に「公共政策実習Ⅱ」があり、数週間から1か月ほど、NPOや自治体でインターンシップをします。学生の半数近くが参加します。「政策評価論Ⅰ・Ⅱ」では、学生は市長や行政の担当者などの役割に分かれて、ロールプレイ形式で政策評価を学びます。公共政策学科の男女比は半々ぐらいですが、意外と女子は大学院まで進学して政策学の学びを深める傾向が強い。面白いのは、4年で卒業して市役所に就職すると、年配の職員や市民からは、良くも悪くも「若い子」みたいに軽くあしらわれることがありますが、大学院を出ていると、若造がいろいろ提案しても「大学院出てるし、多少は自己主張しても仕方ないか」みたいに一目置かれるんですね。卒業生・大学院修了生が活躍している京都府の様々な自治体で、卒業生が具体的に口を出したり動いたりして、自治体の動きが面白くなっていく、そんなテレビドラマみたいな話がいくつも起きています。私のゼミでは政策評価、行政評価、政策研究をやっていますが、1学年50人ですから全員顔と名前がわかる家族みたいなものですし、教員たちも50人の学生一人ひとりの適性を見ながら指導ができるのは、大きな大学には無い魅力だと思います。
公務員希望者は8割方は公務員になりますね。でも、公務員を機械的に大量育成するつもりはありません。また、目立ってマスコミに出て活躍する「スーパー公務員」を意図的に育成するつもりもありません。良き市民、政治家、公務員になる。あるいは、自治体や地域の政策能力の底上げをする人材の育成が私たちの目的だからです。いかんせん宣伝が下手な大学なもので、山内さんにもこのたびようやく見つけていただいたわけですが(笑)。理論と経験に裏打ちされた教員陣が、研究によって学生に、具体的に政策学は解決策を現場で考えることができる学問なんだということを見せたいと思っています。
文系の学問は、実務で使えます。政策学は、具体的に地域の問題を解決する気があるのです。私たち教員が研究でそれを示します。もちろん、大学が問題を解決するだけではなく、学生を育て、彼らが地域に入り、あるいは自治体と連携する中で、解決策を現場で考える人材を作り、地域そのものの政策能力を向上させるのです。
地方公務員は、市長や議員の下で、言われたことをやるのが仕事ではありません。主体性が求められます。自主的に政策を遂行する能力が必要なのです。市長は年百件もの仕事を全部自分でこなすことはできないし、議員は市長と市役所を監視するのが仕事で政策の能動的なプレイヤーではありません。ある意味で自治体職員は地方自治の主役です。もちろん、政策学を学んだ市民も良き有権者として政策の主体になりうる。民間企業に卒業する学生には、政策や自治体を知っている市民になってほしい。私立大学ですと大半がそうなるでしょう。
政策学は、あるべき政策を実現するという明確な目標を持った、役に立つ学問です。社会を良くしたいと思っている人は、ぜひ、私たちの学科に来てください。
──実際に卒業生の3割ほどが公務員になる、京都府立大学の公共政策学科。前身の福祉社会学部のイメージから、それほど世の中に直結した学問をする大学だとは思っていなかったのだが、実際には「おつむと実務」を兼ね備えた、優秀な公務員や良き市民を輩出できる素晴らしい学科であった。ただし、現在の知名度は京都府限定だ。この優れた教育を全国に広めていくのは、私(山内)の役割の一つであろう。(おわり)

(写真)窪田好男ゼミの学生が、京都市の政策評価制度を市民目線でわかりやすく紹介する冊子

(写真)自分が市長や知事だったら、どう政策を運営するかを考える授業

(写真)オープンキャンパスでは研究室公開もしている

(写真)4年生には自主管理の「4年生部屋」が与えられ、自由に使える。

(写真)窪田先生の取材後は、同じく公共政策学科の杉岡秀紀講師、副学長・地域連携センター長・京都和食文化研究センター長の田中和博教授(生命環境科学研究科・森林計画学研究室)と昼食。

(写真)杉岡先生、田中先生から、地域連携活動の資料を、沢山いただきました。
【窪田先生のFacebookから追記】
なお、京都府立大学公共政策学部では、卒論が必修になっており、卒論の単位を得るには、
まず3回生の春休みに卒論構想をまとめて学科に提出する必要があり(その内容に応じて指導教員が決定されます)、
10月の中間発表会で報告する必要があり、
12月20日ごろ(年により異なる)の所定の日時に提出する必要があり、
1月上旬(福祉社会学科は異なる)に口頭試問を受ける必要があります。
口頭試問は指導教員=主査の他、その時まで本人には知らされていない副査の2名で30分弱行われます。
なかなかしっかり指導をしている方だと思います。
こうした指導を通じ、卒業論文の目的である基礎的な研究能力の獲得を期待しています。
基礎的な研究能力の内容として想定しているのは以下の通りです。
・意味ある研究テーマを設定できる。
・その関連で、研究テーマに関わる本や論文の主要なものは読み、現場を見学したり実務家の話を聞くなどということができる。
・所定の分量で過不足なく研究成果をまとめることができる。
・口頭発表で論文の構想や論文の概要を説明でき、質疑応答に対応できる。
基礎的な研究能力を獲得する意味ですが……
・生涯にわたり学術的な情報を収集し活用することができるようになる。
・研究能力に裏付けられた文章で社会に影響を及ぼすことができるようになる。
ツイート

